2006年時点で世界の時価総額トップ10企業のほとんどは石油関係だった。それから10年がたった今、その多くがIT関連企業に入れ替わっている。加速度的に変化する世界で日本が再び存在感を示すためには何が必要なのだろうか。
25年間、情報セキュリティの分野に携わり、現在は内閣府参与 兼 経済産業省参与を務める齋藤ウィリアム浩幸氏の特別講演「情報とセキュリティ~見落とされているサイバー攻撃への対策~」が11月30日、「富士通セキュリティフォーラム2016」にて行われた。
日本と米国、2つの国でITの最前線に立ち続けた齋藤氏は、現在の日本について何を語るのか。
日本の生産性が落ちるワケ - なぜICTを活用できないのか?
齋藤氏は1991年、米国でベンチャー企業を立ち上げ、指紋照合と生体認証の技術で成功を収めた。以降25年間、情報セキュリティの分野に携わり、帰国後は内閣府参与として政府に協力している。
そんな齋藤氏から見ても「ここ3年間ほどで、サイバーセキュリティへの関心は高まっている」という。その背景には、世の中が加速度的に変化しているという現状がある。齋藤氏は「Market(市場)」「Mother Nature(環境問題)」「Moore’s Law(ムーアの法則)」という「3つのM」を挙げ、「これが世の中を変える根底にある」と説明する。
そして変化の原動力となるのはもちろんITの力だ。現在、世界の時価総額トップ10企業の大半をIT関連企業が占める。10年前まではほとんどが石油関連企業だったことを考えると、いかに大きな変化が起きているかがわかるだろう。
一方で、日本の生産性は芳しくなく、世界に逆行するかたちで大きく下落している。その理由は「ICTを活用できていないから」だと言われているが、ではなぜ活用が不十分なのか。
齋藤氏によると、日本の企業ではまだITについて「怖い」「危ない」「わからない」といったイメージを持っているところが多いという。「怖い」や「危ない」というイメージを抱かれるのは、すなわちサイバーセキュリティに不安があるということでもある。
とは言うものの、日本でも今後、ICTがより重要になってくるのは間違いない。であれば、サイバーセキュリティに全力で取り組み、不安を払拭することが必要だ。
ビジネスモデルを大きく変えるネットワークの姿
ICT時代に求められるものは何か。その1つとして齋藤氏が挙げるのが、トレンドワードでもあるIoTだ。
もっとも、IoTはただモノにセンサーを付けることではない。ムーアの法則に従って半導体の価格はどんどん安くなり、結果として通信コストも下がりつつある。その結果、今後はモノ単体でなく、ストレージやセンサー、通信などを組み合わせたプラットフォームの台頭が予想される。
このプラットフォームこそがIoTであり、「現在の日本が抱える課題でもある」と齋藤氏は主張する。
どういうことか。
「PC、携帯電話、カメラなど、新しいモノが出てくると、日本は一時的にリードします。しかし、モノづくりはデジタルに変わり、今はさらにネットワークへと変わりました。日本はモノづくりはできますが、ソフトウェアになると世界にとられてしまう。これが課題なのです」(齋藤氏)
ここで言う「ネットワーク」とは、単にFacebookやTwitter、ECなどのことを指すのではない。ネットワークとはインタラクションであり、クラウドソーシングやオープンソース、ゲーミフィケーション、クラウドファンディング、シェアリングエコノミーなども全て含まれるのだ。
これを踏まえて考えると、ネットワークがビジネスモデルをがらりと変えたことがわかるという。
「例えば、時価総額世界一の代理店はFacebookであり、世界一の映画会社はYoutubeです。同じく世界一のタクシー会社はUberであり、ホテルはAiabnb、そして小売店は(「意外かもしれませんが」と前置きしつつ)アリババです」(齋藤氏)
これらのビジネスに共通しているのは、ネットワークを介在していることだ。例えば、Facebook自体は広告の作成はせず、ネットワークが作成する。Uberもタクシーは1台も保有しておらず、Aiabnbも部屋を1つも持っていない。全てネットワークによって生み出されているのだ。