DMM.comの創業者である亀山敬司氏は12月6日、京都で行われているITベンチャーイベント「Infinity Ventures Summit 2016 Fall Kyoto」で「pixiv(ピクシブ)」の創業者である片桐孝憲氏に代表取締役社長を交代すると発表した。亀山氏はDMMから身を引くのではなく、DMMをホールディングス制に移行し、ホールディングスの会長として経営に関与する。

なお、その直後に行われたITベンチャーのCTOに向けた併設イベント「IVS CTO Night and Day 2016 Winter powered by AWS」で、「緊急企画! DMM亀山会長からCTOへ」というスペシャルセッションが開催された。元々はセッション内容について外部非公開を予定していたものの、亀山氏のたっての希望により記事化が可能になった。その様子をお届けしたい。

DMM.com創業者の亀山敬司氏(左)とpixiv 創業者 片桐 孝憲氏(右)。亀山氏はいつも通り顔出しNGだった

頼むわ、片桐くん

亀山氏は以前からIVSに参加しており、ITへの見識を備えた経営者としても著名だ。それは、DMM.comというWeb界の一大企業というだけでなく、亀山氏のカリスマ性やその発言、そしてDMM.makeなどの常に新しい取り組みを続ける行動力が大きな魅力となっているのだろう。

ただ、亀山氏はそうした自身のポジションを認めつつも「(ITを)わかったふりをしながらネットの会社やってきた。でも、(ネットが)わからないことを隠しきれない時代に差し掛かってきた」と語る。その理由は、このCTO Nightの場が表すように、技術に理解ある人間が「理解できる」ではなく、「理解している」人間がキーポジションにいなければいけないという考えに基づくものだ。

「俺とか営業系の人間が色々な事業を考えて、エンジニアに『これを作ってほしい』と言ってきた。こういったことはどの会社でもよくあることだと思う。でもこのやり方だと、社内なのにエンジニアが下請けっぽくなっていた。うちの中でそういう雰囲気になって、『まずいな』と感じた。

経営的にまずいなと思って、組織を縦割りにして、動画配信事業部、レンタル事業部と分けて、営業とエンジニアが一緒になって作っていく感じにしていこうとして、方向性を模索した。ところが実際に動いてみると、事業部の中でもお互いを理解しきれず、文化が合わない状況が出てきた。エンジニアは営業からビジネスを学び、営業はエンジニアに学んで混じりあればいいと思ってたけど、エンジニアからすれば『(非エンジニアが)上に立つの?』と思う環境になってしまい、一気に不安が広がってしまった。

いいと思ったことが不安に繋がり、経営者として『エンジニアの前で話してください』と言われた時、正直自身もどう話せばいいかわからず、怖くなった。その時に、片桐くんが近所に住んでいたので、どう話せばいいか聞いてみた」(亀山氏)

片桐氏はピクシブ創業者であり、同時にエンジニアでもある。

「ピクシブはエンジニアの会社で、4期目になって初めて非エンジニアを採用したような会社。正直、『開発しなければ人間じゃない』という環境で、DMMと真逆の会社でした。売上は一般的に、営業部門などのエンジニアじゃない人が作っているように見えるんですが、Webはエンジニアが作る。エンジニアカルチャーの会社をやってきた身として『エンジニアが売上を作っていると”言い続けないと”』という話を亀山さんにしました」(片桐氏)

亀山氏はもともと、ITに理解があるという意識を自分でも持っていたという。しかし、片桐氏にそう言われてから、新サービスの担当者名に事業部長の名前や営業の人間の名前が並んでいても、エンジニアの名前がないことに気付いたそうだ。

「エンジニアに『こういうサービスを出そうよ』『仕様を考えよう』ではなく、自分たちで考えようという風に話をしていたけど、そもそも自分が細かい部分で気を回していなかったことにこの時気付いた。そういうことを変えたいなと思って、過去10数年のことを振り返り『それじゃいかんな』『エンジニアの気持ちがわかるCEOがいないと駄目だな』と思って、2カ月前に『頼むわ、片桐くん』と話した」(亀山氏)

キャッシュが貯まるのは恥

亀山氏がエンジニアフォーカスに振り切った理由は、いわゆるイノベーションのジレンマを乗り越えるためでもある。ビジネスにおいては、非上場企業のWeb企業でありながら売上高2000億円を超えるまでに成長させた手腕が亀山氏にはある。一方で「LINEやFacebookのようなサービスは俺から生まれない」と亀山氏は断言する。

「俺も技術は色々見ているつもりだけど、元々技術畑の人でさえ40歳50歳となってくるとこれからの技術にはついていけない。一方で20代や30代の奴らは、事業や商売、資金繰りなどが、全然わかっていない。でも、何かを生み出したいというエネルギーがなければ、これからのインターネットはやっていけない。商売人として、資金や勝負できる部分と、20代、30代の若い奴の発想や技術が合わされば最強じゃんと思った。『稼ぐものは任せろ、金はある』だね。そこにテクノロジーがあると色々やっていけそうだなと」(亀山氏)

片桐氏もこれに同調。ピクシブでは学生アルバイトを雇ってサポートを行っているそうだが、サポートで不具合の照会があった際には、学生がエンジニアに対してプログラミングの方法を尋ね、自分たちで直せるように頑張っていたという。そうした空気感も含め、ピクシブは「いい会社だなと思っていた」と片桐氏。その環境を捨ててまで、縁もゆかりもないDMMに飛び込む理由は「失敗への寛容性」だと話す。

同社は著名な動画配信サービスやFX以外にも、3Dプリントの「DMM.make」や「DMM VR THEATER」、今年の新規事業領域としては「DMM.Africa」「DMM Okan」がある。これらの新規事業の裏には数えられないほどに消え去ったサービスもある。

「3DプリントとかVRシアターだとか、やってるんだけど、わかっていてはやってない(笑)。やっぱり、ほっておいたら、どう進めればいいかわからない事業が、進めていくうちに(社員も)覚えていくんだよね。だから、3Dやるって言っても、任せた彼らが作り上げたものだから、彼らが3Dを仕切っていってくれと言っているし。

AfricaだろうがmakeだろうがOkanだろうが、入口だから作りやすいんだよね。一度作ってしまえば、エンジニアやIoTのモノが勝手に寄ってくる(笑)。アフリカだってそう。やってみないと前に進まないなと思ったし、あちこち張っていくことが大事。10回騙されても1回は信用できるだろとやること」(亀山氏)

こういう話をして、片桐氏に「会社をどうして行きたいか」と尋ねたそうだ。その際に片桐氏はAmazonが売上規模は莫大でありながら、利益率が0に近い攻める投資、開発にかける環境を凄いと語ったそうだ。それが亀山氏の琴線に触れた。

「今うちは2000億円の売上があるけど、利益が出ている。でも、利益が出ているってことは投資ができていないんだよね。今までは売上があってもお金がなかった。でも、キャッシュが貯まるのは恥だと思っているし、キャッシュを使って挑戦してくれる奴がほしい。

キャッシュなんてなくても、人がどんどん入ってきて、資金繰りが難しそうならファイナンスできる会社が強い。結局、何事にも実践で、リスクを取らないと(仕事は)覚えない(笑)。自分が思うのは、これを社員にやってほしい。VCとしてどこかのスタートアップに出資して、運良くIPOしてくれたら『ラッキー』じゃなくて、中の人にやってほしい。どんどんやってくれ、新しいスタートアップの買収でも、エンジニアの教育でもいい。会社を強いものにしていきたい。5%、10%出資して『よっしゃ』じゃなくて、そういう技術を持ったエンジニアが欲しいし、そのエンジニアが作る技術がほしい」(亀山氏)

亀山氏がCTO Nightで「緊急企画! DMM亀山会長からCTOへ」と銘打ったセッションを希望した理由、それはCTOへの声がけだったことが前文の最後の語りかけからもわかるだろう。最後に、亀山氏が自身の経験から「非上場だからできることがある」という主張を以前のCTO Nightで行ったことを引用し「そこに”テクノロジードリブン”な亀山-片桐体制ができることで、『ヤバくないですか』。世界制覇を狙うんですか?」と問われた亀山氏は、DMMが目指す将来像について、次のように語っていた。