本連載では、主に企業におけるIT部門の読者を念頭に、デジタルビジネスを加速するための全社・部門でのアナリティクスの検討・導入に役立つ視点を紹介していきます。
今回は、製造業を中心とした潮流であるインダストリー4.0やIoTとアナリティクスについて、現在の取組状況、主要ビジネス領域や課題、および今後の技術の高度化の観点について紹介します。
インダストリー4.0/IoTの動向
2015年のドイツハノーバメッセをきっかけに、日本の製造業界ではインダストリー4.0やIoTへの関心が高まり、その高まりは2016年も継続し、より具体化されようとしています。
筆者も2016年4月下旬に開催されたドイツのハノーバメッセに参加しましたが、ハノーバメッセを通じて改めて感じたこと、印象に残ったことは次の3点でした。
米独、日独の連携
1つ目は「国・政府連携の促進」で、2016年のハノーバメッセではアメリカがパートナー国となりドイツと一緒に取り組んでいく姿勢が見られ、また日本もハノーバメッセ期間中に日独連携を発表しました。標準仕様の浸透
2つ目は「標準化・企業間連携の促進」で、アーキテクチャではRAMI(Reference Architecture Model Industrie)4.0 / IIRA(Industrial Internet Reference Architecture)、接続ではOPC-UAの標準化が進み、企業間も独自製品の独自仕様でなく標準仕様で他社とつながる取組事例が多々見られました。OT系が自社で試して、他社に展開
3つ目は「工作機械メーカーのIoTクラウドサービス」で、大手OT(Operational Technology)系メーカーは自ら保有している大量のデータを用いて、まず自社でのソリューションとして情報をクラウド上に集約したサービスを提供し、今後他社に展開していくという事例が多く見られました。
このように、インダストリー4.0やIoTをきっかけに製造業のサービス化が進み、関連するOT系や、IT系企業も巻き込んだ変革が起ころうとしています。
主要ビジネス領域と実現課題
上記のような国を超えた製造業の変革が進む中、具体的にどのようなビジネスケースがあるか各社試行錯誤で進めていますが、製造業では垂直、水平統合の考え方の中で、主なビジネス領域は次の3つに分けられると考えています。
1つ目は「スマート工場」です。工場のスループット向上を狙い、工場の全体監視、製造工程の品質改善、設備の予知保全による稼働率向上などがあります。
2つ目は工場、企業の枠を超えた「サプライチェーン」への広がりです。
3つ目は「アフターサービスから製品開発へのエンジニアリングチェーン」の流れで、製品・機器の稼働状況をとらえた、保守計画、またユーザのニーズを製品開発に生かし、最終的にマスカスタマイゼーションを狙う取組があります。
現状の進捗度合としては次のような印象です。
スマート工場は自社でPOCを実施
「スマート工場」では多くの企業が従来からの取組に、新たにIoT技術を駆使した取組を追加しており、この1年で実証実験もかなり進んでいると感じています。サプライチェーンの企業間連携は模索中
「サプライチェーン」への広がりは、協調と競争領域を鑑み、企業間情報連携における価値創出を模索している状況です。アフターサービスを含め、ビジネスモデルで悩み中
「アフターサービスから製品開発へのエンジニアリングチェーン」は製造業のサービス化による価値創出が生まれる領域ですが、いずれの場合も高い利益率を確保するビジネスモデルについては多くの日本企業が悩んでいるように見えます。
筆者が最も着目しているのは、企業間連携によって生み出される価値の創出です。
日本の製造業の中では協調と競争の領域があり、企業間連携についてはなかなか進んでいない状況ですが、関連する企業間での取組は昨年度から徐々に始まってきていると見受けられます。さらに中長期的視点で協調領域とその価値が具体化されれば、製造業だけでなく、物流業、流通業や金融業との連携も踏まえた、消費者からメーカー、サプライヤをつなぐようなエコシステムへ発展していく可能性があると考えています。
CPSとアナリティクス
アナリティクスとの関係についてですが、上記のビジネス価値を実現する概念としてはCPS(Cyber Physical System)があります。現実世界をサイバー、デジタルの世界に持っていき、分析・シミュレーションを実施して結果を算出し、サイバーから現実の世界にフィードバックし、新たな価値を創出するコンセプトです。
CPSのコンセプトを含んだ高度化の段階としては、実世界のデジタル化で情報データを集積し、情報可視化、共有化による一定の価値創出の後、高度分析やシミュレーションツールを用いたデータ解析による価値創出、結果の現実世界へのフィードバックがあり、さらにはAIによる価値創造や完全自律化に進んでいくと思われます。
アナリティクスの世界では今まで見えている内容だけでなく、今まで見えていなかった価値が創出され、自動化、自律化の方向でさまざまな適用が進んでいくと考えられます。
従来より製造業では製造過程の可視化や効率化、品質、設備管理の最適化は進めてきましたが、今後、工場、サプライチェーン、アフターサービス、エンジニアリングチェーンの分野で、大量の画像データ、音声データ、センサデータが取得され、事象と事物が複雑で、非構造なデータ分析、AIのDeep Leaning(深層学習)を活用した高度化も必要になってくると考えられます。
ただ重要なのはAIのようなテクノロジーが全てを解決してくれるわけではなく、現状のビジネスシナリオをイメージした中でアナリティクスやAIの技術をどう活用すれば価値を創出していくことができるのか、また人間の判断が必要な部分は何かをしっかりイメージしていくことだと考えます。
今回インダストリー4.0やIoTの潮流の中で、製造業に着目しましたが、今後デジタル化社会への革新が世界中を巻き込んで進んでいくなかで、新しい技術を取り入れ、異業種間連携も含めた新しいビジネスの創出を日々考えていくことが重要ではないでしょうか。
<今後の連載予定>
- アナリティクスに取り組む意義
- アナリティクス推進、4つの落とし穴
- アナリティクス推進、5つの視点と5つのステップ
- データビジュアライゼーションとセルフサービスBI
- インダストリー4.0/IoTとアナリティクス(本稿)
- デジタル・ロジスティクスにおけるアナリティクス
- アナリティクスを支えるプラットフォーム
- アナリティクスを支える組織とガバナンス
著者紹介
田口 茂 (TAGUCHI Shigeru)
- 株式会社NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 デジタルコンサルティング統括部 部長
1997年にNTTデータに入社し、グローバル製造業、流通業を中心に20社以上のプロジェクトに従事。システム開発を経験後、SCM領域を中心とした業務/ITコンサルティングを約10年実施。
現在はNTTDのコンサルティング&マーケティング事業部のSCMを統括。