本連載では、主に企業におけるIT部門の読者を念頭に、デジタルビジネスを加速するための全社・部門でのアナリティクスの検討・導入に役立つ視点を紹介していきます。
今回は、アナリティクスの取り組みの中でも比較的敷居が低く、短期間・低予算で成果につながる事例も多い「データビジュアライゼーションとセルフサービスBI」について、その概要と導入のポイントを紹介します。
データビジュアライゼーションとは
筆者は、データビジュアライゼーションを「データが持つ意味を、正しく効率的に伝えるために、チャートやグラフを美的に・機能的に活用すること」と定義しています。
データを活用するには、機械学習等の一部の手法を除いて、人間が”目で見て”データの中味・意味を理解する必要があります。このとき、データを何らかの手段で視覚化する必要があり、その効果・効率性を追い求める研究・手法がデータビジュアライゼーションと言えます。
例えば「棒グラフの色に意味を持たせれば、より多くの情報を一度に表現できる」、「時系列の傾向を知りたいときは折れ線グラフがよい」といったコツは、直感的に納得できるものではないでしょうか。優れたデータビジュアライゼーションは、大量データの集計結果が意味する傾向・相関関係・異常などを、ユーザが瞬時に読み取れるようにする効果があります。
このようなセオリーやベストプラクティスを体系的に整理した論文や書籍も出版されており、レポートやダッシュボードのデザインに活用される例も増えてきています。
参考書籍
- Stephen Fewの書籍 : http://www.perceptualedge.com/library.php#Books
- Edward Tufteの書籍 : https://www.edwardtufte.com/tufte/books_vdqi
セルフサービスBIとは
従来のBIでは、ビジネス部門が自業務に関するデータ分析・活用を行いたい場合、レポート作成をIT部門やITベンダに依頼する必要がありました。
通常のシステム開発と同様に「要件定義~設計~開発~試験」というステップを経て、レポートが利用可能となるまでには、一般的に数週間・数ヶ月といった単位の期間が掛かっていました。
一方、セルフサービスBIでは、ビジネス部門が文字通り”セルフサービス”で自らレポート作成を行います。近年、このセルフサービスBIが主流となっているのは、以下の背景があると考えています。
(1) ビジネス環境の変化加速
従来のBIにおいて、レポートが利用可能となる頃には、自社の戦略や競合動向をはじめとしたビジネス環境が変わってしまい、”当初要件”を満たしたレポートがもはや利用できなくなるという例が多くありました。
これに対して、セルフサービスBIでは、”今の要件”に基づいてレポートを作成し適宜改編していくことが可能なため、ビジネス環境に追従したデータ分析・活用が可能となります。
(2) セルフサービスBIツールの台頭・進化
従来のBIツールは、主にITベンダが開発・設定することを前提にデザインされており、ビジネス部門が自ら使いこなすのは困難でした。
しかし、誰でも使いこなせる直感的な操作性を備えたTableau(タブロー)に代表されるセルフサービスBIツールが2012年頃から台頭し、バージョンアップを重ねるとともに企業全体のBI基盤としての要件も満たすレベルへと進化を遂げています。
(3) アジャイルシステム開発技法の浸透
いくらレポートをビジネス部門自らが作成できるようになっても、BIシステム全体としては分析対象データの収集・加工・蓄積機能などIT部門・ITベンダが開発する部分はゼロではありません。
この部分を従来のウォーターフォールシステム開発技法で数ヶ月・数年掛けて開発したのでは、せっかくのセルフサービスBIのスピードが活かされません。そこで、アジャイルシステム開発技法を採用し、必要なデータを最小限の開発規模に分割して順次利用可能としていくことが必要となります。
セルフサービスBI導入のポイント
上記の通り、メリットも多く導入の機運が高まっているセルフサービスBIですが、複数の導入プロジェクトを支援してきた当社の経験から、成果を最大化するためのポイントは以下の3点と考えています。
(1) データウェアハウス・データマートの組織的整備
ビジネス部門の分析要件を粒度・鮮度・精度の観点で満たしたデータがデータウェアハウスに格納され利用可能となっている状態が望ましいと考えています。これにより、業務部門がセルフサービスBIツールでデータウェアハウスに接続し、項目をドラッグ&ドロップするだけでレポートを作成できるようになります。
そのためには、外部システムと連携するデータ収集・蓄積機能とデータマートへのデータ加工・更新機能について、IT部門・ITベンダの支援を得て組織的に整備する必要があります。
(2) パワーユーザのトレーニング・リテラシー向上
セルフサービスBIツールがいくら直感的な操作性を備えていても、行いたい分析業務に応じて使いこなすには一定の習熟が必要です。
特に、組織に幅広く配布する標準的なレポートを作成するパワーユーザには、ツール自体のトレーニングに加えて、データウェアハウスに格納されているデータ項目の意味や集計方法を理解してもらう必要があります。
(3) データ活用のマインドセット醸成
パワーユーザが作成したレポートは、実際の業務担当者であるエンドユーザに参照されて初めて価値を発揮します。しかし、大抵の企業・組織では業務担当者にとってデータを活用することは必須ではなく、後回しになってしまいがちです。
データ活用のマインドセットを醸成するには、組織的にモニタリングするKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を設定し、その達成度を担当者の評価につなげるなどの取組みが重要です。
データビジュアライゼーションによるセルフサービスBIの高度化
セルフサービスBIの導入によって、ビジネス環境に追従したレポートをタイムリーに作成できる基盤が整ったと言えますが、これを高度化するにはデータビジュアライゼーションによるデータ分析・活用のプロセス(下記)をまわすことが重要です。
データビジュアライゼーションによって得られた気付き・洞察は、組織内で共有され、アクションに反映されるべきです。さらに、実行に移されたアクションの結果、新たなビジネス上の仮設・課題が浮き彫りとなり、これを分析するためのレポートを作成するといったサイクルが回りだすと、データ分析・活用がその組織の競争優位になるレベルまで高まったと言えます。
データビジュアライゼーションによるデータ分析・活用のプロセス |
<今後の連載予定>
- アナリティクスに取り組む意義
- アナリティクス推進、4つの落とし穴
- アナリティクス推進、5つの視点と5つのステップ
- データビジュアライゼーションとセルフサービスBI(本稿)
- インダストリー4.0/IoTとアナリティクス
- デジタル・ロジスティクスにおけるアナリティクス
- アナリティクスを支えるプラットフォーム
- アナリティクスを支える組織とガバナンス
著者紹介
渡部 良一 (WATANABE Ryoichi)
- 株式会社NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 デジタルコンサルティング統括部 課長
2004年にNTTデータに入社し、10年以上にわたり一貫して企業におけるデータ活用の取り組みを支援。2011年-2012年には北米拠点に赴任し現地企業へのBI導入に従事。
2016年より現職。現在は、国内におけるTableauの第一人者として、グローバル企業のBI/DWHシステムおよびデータ活用の構想策定・導入・定着化コンサルティングを担当。