しかし、新しい世帯の転入を推進している地方だけではありません。「空き家問題」は過疎地域の問題だと思っていたら、人口密集の象徴でもある東京都の23区でも新しい世帯の転入を推進している区があるのです。
オフィスや大学、病院などが中心の千代田区は、以前から医療機関の充実などをアピールポイントにして住民の誘致に熱心でしたが、意外なことに住宅も多いと思われる区でも誘致の制度を設けています。
確かに相談業務を行っていると、区部でも家を複数件所有していて空き家のケースや、老朽家屋の問題に悩むケースも特殊な例ではなくなりました。都市部での転入支援制度を見ていると、介護負担や少子化が進む中、バランスのよい自治体の運営に苦慮している様子がうかがえます。いくつか例を挙げてみましょう。
■板橋区
「区立住宅 新婚・子育て支援制度」を設けています。新婚・子育て支援制度を利用すると、3LDK(65平方メートル)の場合ですと家賃7万3,700円から借りられます。受付期間は平成25年4月1日~平成31年3月31日で、対象世帯は「新婚世帯(婚姻予定及び婚姻後3年以内の世帯)」と「子育て世帯(小学校6年生以下の子どもが1人以上いる世帯)」です。
支援内容は支援決定の翌月から3年間、区立住宅の使用者負担額(家賃)を3万円減額(※区立住宅借り上げ期間を限度とする)され、また子育て世帯に該当する場合、小学校6年生以下の子どもに加えて、18歳未満の子どもが1人いる場合は3万5,000円、2人以上いる場合は4万円を減額されます。
■千代田区
「次世代育成住宅助成」制度があります。「親世帯との近居のために住み替える新婚世帯・子育て世帯」や「子どもの成長等に伴いより広い住宅に住むために区内転居する子育て世帯」を対象とした住宅助成です。親元近居助成は区内に引き続き5年以上居住する親がいる、新婚世帯または子育て世帯で、区外から区内への転入、または区内での転居をすることが条件です。また区内転居助成は、区内に引き続き1年以上居住する子育て世帯が区内での転居をする場合に適用されます。年収や住宅の規模、借入額などの要件もあります。
■北区
「ファミリー世帯転居費用助成」制度があり、北区に1年以上居住している18歳未満の子どもを2人以上扶養・同居している世帯が、区内の民間賃貸住宅から、最低居住面積水準以上かつ転居前より広い民間賃貸住宅に転居した場合に、礼金と仲介手数料の合算額(上限30万円)が助成されます。
■豊島区
「子育てファミリー世帯への家賃助成制度」では、豊島区内の民間賃貸住宅(区民住宅ソシエを含む)に転居(転入)した場合に、一定の要件を満たす子育てファミリー世帯に対し、転居(転入)後の家賃と基準家賃との差額の一部を、一定期間助成しています。対象は申請時点で15歳以下の児童1名以上と、その児童を扶養する者が同居している世帯です。助成金額の上限は1万5,000円/月ですが、詳細な要件は区の住宅課にお問い合わせください。
■品川区
「親元近居支援事業(三世代すまいるポイント)」では介護や子育てなど、お互いに助け合いながら安全・安心に暮らしていくことができるよう、親世帯と近居または同居することになったファミリー世帯に対して、転入・転居費用の一部を「三世代すまいるポイント」として交付しています。ポイントは商店街などで使えます。
■新宿区
「民間賃貸住宅家賃助成」制度は、区内の民間賃貸住宅に住む世帯の家賃を助成することで負担を軽減し、定住化の促進を目的とした制度です。学生および勤労単身者向けと、子育てファミリー世帯向けがあります。助成額は単身者向けが1万円/月で最長3年間、ファミリー向けが3万円/月で最長5年間となっています。
■目黒区
「ファミリー世帯家賃助成」は、目黒区内の民間賃貸住宅に居住する、18歳未満の子を扶養する世帯に対して家賃の一部を助成し、居住の継続と子育ての支援を行うことを目的としています。助成額は2万円/月で最長3年間となっています。
■ 筆者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。