藤井聡太の懸念

藤井先生に、自分の将棋のどんなところを見てほしいか、という質問をした際のやりとりです。

――序盤から終盤まで完成度が高い藤井先生ですが、ご自身としては自分の将棋のどんな部分を見てほしいですか?

藤井「最近だと先手番で角換わり腰掛け銀を指していて、序盤は観ている方からすると毎回同じことをやっていると思われているのではないかと懸念しています(笑)。懸念しているというか、実際そう思われていると思うんですけど」

――いやいや(笑)。

人の目はあまり気にされない方なのかなと思ってましたが、「毎回同じことをやってるって思われてますよね?」という感じで照れながら話されていました。藤井先生が「自分が周りからどう見られているか」について話されたのは珍しい気がします。

藤井先生のいつもドキドキさせてくれる将棋に対して、毎回同じことやってるなぁと思ってる人なんているんですか? いや、いないでしょう。 話は続きます。

藤井「その中でも細かな工夫というのはあるんですけど、それを伝えるのはなかなか難しいかなということはあるので、中終盤でお互いの玉の距離感をどういう風に見ているか、というところに着目していただければなと思います」

――距離感……。観ている側としてはどのように観ればいいでしょうか?

藤井「お互いの玉形を見たうえで、攻めていくか、自陣に手を入れるか、どのタイミングで攻め合いに出るか、といったところでしょうか」

藤井先生の将棋の魅力は「ぎりぎりのところで踏み込んでいく姿勢」にあると思っています。自分の玉も危なそうなのに攻めに行くとか、際どい受けの好手を連発して相手の攻めを切らすとか、そういう感じです。スリルがあって観ていて楽しいですよね。

藤井先生の「玉の距離感をどういう風に見ているか」というのは、そういうギリギリのラインの見極め、ということだと思うので、まぁ普段通りに見ていればいいのかなと思いました。

藤井先生には「誰も毎回同じことやってると思ってないのでご安心ください」と伝えておきました。

  • 藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の第5回(最終回)です