史上最年少名人・七冠という偉業を達成し、無人の荒野を進むかのように歴史を塗り替え続けている藤井聡太竜王・名人。日本将棋連盟が刊行する『令和5年版 将棋年鑑 2023年』の巻頭特集ロングインタビューの取材に際して、藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の最終回です。インタビュアーの主観が大いに混じっていますが、どうかお許しください。
すれ違う心
藤井先生が棋王を奪取して六冠になった際に色紙に「六冠」と書かれたのですが、それがあまりにも上手で驚かれた方も多かったのではないでしょうか。密かに書道の練習をしていたのかな?と思って聞いてみました。
――続いては書について。最近書かれていた「六冠」の揮毫(きごう:色紙などに書を書くこと)がとても達筆でした。なぜ急にうまくなったのですか?
藤井「たまたまです(笑)」
――練習したわけではないですよね。
藤井「そこに備えるということはさすがに(笑)」
――(笑)そうですよね。とはいえ、揮毫する機会は増えたと思うので、だんだん書くことに慣れてきた、ということはあるでしょうか。
藤井「そうですね、実戦で。実戦だけで練習はしてないんですけど(笑)」
この部分、普通に会話が流れているように見えますけど、実は私の質問と藤井先生の回答の意図が少しずれています。
私は書道の練習をしたんですか?というつもりで聞いたのですが、藤井先生は「六冠」という揮毫を練習したんですか?という質問だと思われて、「そこ(=六冠)に備えるということはさすがに」と返答されてます。つまり、六冠を取る前から「六冠」という揮毫を練習してませんよ、ということですね。
それにしても、藤井先生は年を重ねるごとに字がお上手になっていて素晴らしいですよね。特にここ最近は大人の字になったような気がして、とても好きです。
「藤井聡太全局集」の1年目(2018年6月発売)か2年目(2019年6月発売)の時にサイン本のサインがどうしてもうまく書けないといって到着がかなり遅れたのが懐かしいです。できるだけきれいな字でファンの方に届けたいという藤井先生の優しい気持ちが伝わった気がしました。