このことを前提にしたうえで話を進めますと、今回の問題を別の角度から見ると、浮かび上がってきたのが「世界トップとなった韓国の半導体産業は日本の強さの上に成り立っている」という事実です。
前述の3品目ですが、いずれも半導体の製造過程で不可欠な素材です。このうちレジストは、半導体素材(シリコンウエハー)の表面に塗布して光を当て回路を焼き付けるのに使われる感光材のことで、日本経済新聞によればこの分野では東京応化工業や信越化学工業など日本企業が世界シェアの90%以上を占めています。
またシリコンウエハーに回路を作った後に表面の薄膜を取り除くための洗浄剤として使われるフッ化水素(エッチングガス)では昭和電工など日本企業の世界シェアが44%、スマホなどのディスプレー用樹脂材料となるフッ化ポリイミドでは94%(三菱ガス化学など)に達しています。
半導体を作るうえで不可欠な素材はこの3品目だけではありません。半導体は桁外れに微細で超精密な数多くの工程を経て製造されるため、多様な素材や材料はきわめて高い品質が求められますが、この分野では日本企業が世界で高いシェアを握っているのです。
世界の半導体を支える日本の「隠れた強さ」
最も基本的な素材であるシリコンウエハーにおいて、信越化学工業とSUMCOの日本企業2社で世界シェアの6割を占めているのをはじめ、世界の半導体材料市場全体で日本企業のシェアは50%、特に先端材料の分野では80%に達しているそうです(日本経済新聞)。
さらに、半導体を生産するための各工程の機械設備(半導体製造装置)の分野でも日本企業が活躍しています。米調査会社の世界半導体製造装置メーカー売上高ランキングによると、上位10社のうち日本企業は5社を占めています。そのほかは米国企業が4社、オランダ企業が1社です。
こうしてみると、韓国はもちろん世界の半導体メーカーは日本企業なしには半導体を作ることはできないと言っても過言ではありません。これは電子部品や化学、素材、精密機械などの日本企業が時間をかけて高い技術力を磨いてきた結果であり、「他に代替がきかない」という強みを発揮しているわけです。
その結果、これらの企業は価格競争に陥ることもなく高い利益率を確保できています。日本はかつて世界の半導体市場を席巻していましたが、今や韓国に取って代わられています。そのため、日本の半導体産業が丸ごと凋落したというイメージが強くありますが、実はその陰で世界の半導体を支える存在になっているのです。これが日本の製造業の「隠れた強さ」でもあります。
逆に言えば、韓国の半導体が意外に基盤の弱い産業であることがわかると思います。韓国は今回の事態に対応して半導体材料の自国生産や第三国からの調達などの方針を打ち出していますが、いずれもきわめて高い技術が求められるものばかりであり、そう簡単に実現できるものではありません。
そして日本のこうした「隠れた強さ」は、実は半導体関連だけではないのです。これについては次号で詳しく見ていきます。