キーボード操作でリハビリテーション

入院中、スマートフォンでも事足りるのにわざわざノートPCを自宅から取り寄せて使っていた目的のひとつが、「キーボード操作のリハビリテーション」でした。

右半身がマヒ状態にあった筆者が仕事への復帰を考えた場合、ノートPCが使える程度まで、右手の機能を取り戻せるのかが重要になります(もちろん、右手が使えなくても執筆活動をされている人はいます)。

筆者は、脳内出血の病状が落ち着いてきて、ハードウェアQWERTYキーボードを搭載したUnihertz Titanで親指タイピングができる(=QWERTYキーボードの配列を認識して指で正しく押すことができる)まで回復した段階で、主治医にノートPCの持ち込みについて相談したところ「リハビリにいいと思いますからぜひ」というアドバイスがあり、ノートPCを入院先で使うことができました。

とはいうものの、案の定タイプできる速度は遅く、かつ、マヒしていた右手を使う領域のキーはタイプミスも多い(傾向としては、本来タイプすべきキーの内側にあるキーをタイプしてしまいやすかった)状況。ThinkPad T14s(AMD)を入院先で使い始めた当初(入院生活約1カ月)は、250文字の作文と入力に15分間もかかっていました。

しかし、Unihertz TitanのハードウェアQWERTYキーボードでの入力でもそうでしたが、ThinkPad T14s(AMD)でも、使い続けているうちにタイピングの速度は改善していきます。

使い始めた半月後には通常(筆者の場合、倒れる前の執筆速度として「一時間千文字」という目安がありました)の6~7割に、さらのその半月後には通常の8~9割までタイピング速度自体は回復してきました。

難関だった「疲れやすさ」は長く続く

ただ、タイピング速度は回復してきてもミスタイプの頻度はなかなか改善しません。また、脳疾病患者の特徴である「疲労しやすい」という状況が筆者の場合顕著で、当初は20分ほどのタイピングでもう限界という状況でした。

リハビリを重ねて体力と筋力が回復してくるにつれて、タイピングできる時間も長くなってきましたが、それでも、退院した2021年6月時点(脳内出血発症から6カ月経過)でも1時間以上のタイピング作業は困難です。

それでも外の世界とつながっていることは、病院から出ることができない筆者にとって、リハビリをはじめとした入院生活と向き合う大きな原動力となったのです。SNSを通して多くの仲間からいただいた励ましのコメントに返事を書くことは、その行動そのものが筆者自身にとっても大きな励みになりました。

入院期間中には、ボードゲームの大規模な即売イベント「ゲームマーケット2021春」が開催されたのですが、“同人ゲームデザイナー”でもある筆者は当選していたブース出展を、泣く泣くキャンセルせざるを得ませんでした。

しかし、出展するデザイナー仲間(いや、正しくは“大先輩”)の好意で委託頒布をしていただくことになり、作品を紹介する展示用POPのデザインと印刷用PDFデータも、ThinkPad T14s(AMD)に導入していたAdobe Illustratorのおかげで作成することができました。

こうした制作活動を通して、入院していながら同人イベントに参加する楽しみを体験できたのです。

  • 入院中に開催されたゲームマーケット2021春では“大先輩”の「堀場工房」さんで委託頒布をしていただくことになり、展示用POPを“病室”でデザインしたこともあった。この他にもウォーゲーム雑誌が企画した「鈴木銀一郎氏追悼企画」にコラムを執筆させていただいたり、COVID-19の感染拡大を受けて自作ボードゲーム「Operations Research for COVID-19」のルールをWebで公開したりと、入院中にもかかわらず、外の世界とつながることができた

このように、デジタルガジェットで外の世界とつながれたおかげで、筆者は希望をもって入院生活を送ることができました。

……というところで「あれ? 外の世界とつながる『ネットワーク』って、どうしていたの?」と疑問を持った人もいるかもしれません。次回は入院生活で利用できた「ネットワークとSIM」について紹介しましょう。