――舞台をはじめ作品づくりの柱、根底にあるのはやはり恋や恋愛なんですか?
20代前半ぐらいは自己愛が半端じゃなかった。誰のことも信じられないし、自分のコンプレックスとか苦しいことをいかに掘り下げて描くことばかりやっていて、他が見えてなかった。それの究極の形が今回の映画なんですけど、20代後半からは割とどうでもよくなってきて、最近ではみんなで作ることの方がいいなと思いはじめています。
――それは年齢的な変化なんですかね。
20代の頃には見えていなかった景色が見えてきて、人と作るってこういうことなんだと思ったときにすごく有機的になりました。「作ることは楽しい。だから作りたい」という原点を思い出したんですよね。なぜ、苦しむことが正しいと思ってたんだろう……。きっと「何者か」になりたすぎて、耳をふさぎ続けていた。そして、自分に自信がないから、追い込むことで自分を保つしかなかった。今ではそう思います。
――何よりも劇中での池松壮亮さん、満島真之介さん、大倉孝二さんのやりとりがすごく熱量があって楽しそうでした。
現場は熱くてつらかったですけど(笑)。殺伐としていましたが、生産的ではありました。これを思いついて脚本を書いていた当時と、撮っていた去年で違う。去年撮っていた時と、公開を迎えた今もメンタルがだいぶ違っています。
――現時点のメンタルで、今作はどのような位置づけですか?
自分にとってのすごくマイノリティな部分とか、光の当たらない人たちをとにかく真剣に見つけて、描こうとしているという意味で、「なんか優しいな」と思います。今の僕にはできない。今は……こんなニッチなことをせずに、普通にみんなが共感できるような作品を作りたいとも思います(笑)。
――映画づくりのスタンスはそうやって変化していくものなんですね!
たぶん、自分にとって集大成だったからだと思います。これで自分を貫いて、その後に『バイプレイヤーズ』をやって、それですごく肩の力が抜けました。あのドラマで、考え方が180度変わった。たくさんの人に愛される作品はすばらしいことだと今は思います。
ブログで伝えたかった「心無い人の言葉」「大切な言葉」
――2018年7月3日に投稿されたブログには、「作ることは覚悟のいることで、いつまでたっても、心無い人の言葉によって、大切な言葉を忘れそうになってしまいます」とつづられていました。「心無い人の言葉」とは、具体的にどのような事柄ですか?
「レッテルを貼る人」です。1800円払ってくれていたら別にいいんですよ。僕がそっちに支配されてしまうのが損だなと思います。僕は、こういう作品がないと生きていけない人がいると信じている。少なくとも自分がそうだったので。そういう人がいるなかで、「こんなのストーカー映画だ!」と頭ごなしに否定して、「思いが伝えられない苦しみ」を感じたことがないような人、デリカシーのない人に邪魔されるのがすごく……邪魔ですね。でも、1800円払ってくれているんだったら、全然いいです。試写とかで言われると腹立つんですよ(笑)。
――なるほど(笑)。一方で、「大切な言葉」というのは?
高校生が、「わからないですけど、3回泣きました」と伝えてくれたことがあって。きっとその子にとっては、何かが変わったんだと思います。僕は言葉にできない感情、言語化されてない感情を作品にしたい。まだ発明されてない言葉は人間的で、そういった感情は生きていてすごくすばらしいと思います。たぶん、高校生や中学生はまだいろんな言葉を持ってないから、よりそういう状態になりがちで。そういう人と出会うと、福岡にいた頃に演劇だったりとか、ミニシアター系を見ていた時の感情を思い出すんです。明日もがんばろう。そうやって前向きな気持ちになるから。でも、そういう方々のお言葉を本当に忘れそうになるんですよね。
――そういう意味でも、本作は「集大成」だと。
ものづくりの第一期みたいな位置づけです。次は……まだ分からないです。自分の中で何か生まれたら、またいろいろな人に相談してみたいと思います。問い合わせいただくこともあるんですけど、基本的には今は……どうすればいいのか分かんなくなっちゃって。一生やめちゃいけないとは思ってます。でも、この作品までずっと何かをやって走り続けてきたので、ちょっと一回落ち着こうと。だから、次の作品はすごく大きな意味を持っていると思います。
■プロフィール
松居大悟
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。慶應義塾大学在学中に劇団ゴジゲンを結成。2009年の『ふたつのスピカ』(NHK)でドラマ脚本家デビュー。最近では、大ヒットシリーズ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系・17~18)を手がけた。2012年に映画監督デビュー作となる『アフロ田中』が公開された。以降は、『男子高校生の日常』(13)、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)、『スイートプールサイド』(14)、『ワンダフルワールドエンド』(15)、『私たちのハァハァ』(15)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)。放送中のフジテレビ系『グッド・ドクター』(毎週木曜22:00~)では俳優として出演、J-WAVE「JUMP OVER」(毎週日曜23:00~)ではナビゲーターを務めている。
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