問題をおさらい!
正解はこちら!
【答え】ヤマハ「GTS1000」
正解はヤマハ「GTS1000」でした!
「GTS1000」はヤマハ発動機が1993年に欧州向けとして発売した大型の高速ツアラーです。最大の特徴はフロントに「片持ちスイングアーム」式という珍しいサスペンションを採用していることでした。
これはヤマハが1989年の東京モーターショーに出展したコンセプトモデル「モルフォ」や翌年の「モルフォⅡ」が装備していた機構で、SFに登場するバイクのようなスタイルで注目を集めます。しかし、昔からバイクのフロントサスペンションは二本の筒で構成される「テレスコピック」式が常識だったため、市販車で採用されたことには世界中の人たちが驚きました。
この風変わりなサスペンションのメリットは、強いブレーキをかけた時でも車体が前のめりになりにくく、安定した走行ができることです。同じようにフロントフォークを持たない「ハブセンター・ステアリング」にも似ていますが、「GTS1000」のサスペンションは片持ち支持で、クルマに使われる「ダブルウィッシュボーン」のような仕組みです。
この構造のためフレームも普通のオートバイとは大きく異なり、形状がギリシア文字の“Ω”に似ていることから「オメガシェープドフレーム」と名付けられたものが採用されています。これに包まれる形で搭載されたエンジンはヤマハスポーツモデルの旗艦「FZR1000」系の水冷4気筒5バルブエンジン。ツアラー向けに100馬力までディチューンしたとはいえ、そのポテンシャルは十分すぎるものでした。
また、当時の欧州では環境保護の取り組みが積極化していたため、これを見越して燃料供給をキャブレターからインジェクション化し、マフラーにも三元触媒を装備して燃費と排ガスの対策も行われています。そのほか、当時は最先端だったABSを装備したグレード(GTS1000A)も併売して安全性の高さもアピールしていました。
このように「GTS1000」はハイテク満載のモデルでしたが、これはメインターゲットである欧州独特のバイク文化も関係しています。あちらでは大型ツアラーは高所得者層の乗り物で、長い休暇を利用してパートナーとタンデムで避暑地や別荘までツーリングするというニーズがありました。快適に長時間走行をするための最新装備はもちろんですが、環境に優しいクルマやバイクに乗ることは富裕層にとってステイタスでもあったからです。
日本国内でも「GTS1000」は逆輸入車として販売されましたが、当時のリッターバイクはレーサーレプリカや最高速度が300km/h近いスポーツ・ツアラーの登場で過激化した時代。そもそも本格的なヨーロピアン・ツアラーはマイナーカテゴリーであり、特殊なサスペンションによる操安性の違和感や、乾燥重量で約250kgという重さが日本のビッグバイク乗りには受け入れられませんでした。
「GTS1000」は欧州では1999年まで販売されましたが、2001年に登場した後継機「FJR1300」では一般的なテレスコピック式に戻り、唯一無二のフロントサスペンションは継承されずに消滅します。しかし、普通のバイクとは異なるフレームワークは欧米のカスタムビルダーにとって魅力的な素材であり、サイバーパンクアートのようにモディファイされた作品がたくさん生み出されています。
それでは、次回をお楽しみに!