NNT(治療必要数)とは?
医療の世界には、某電話会社さんと似た字面のNNT(Number Needed to Treat) という概念があります。日本語で言うと「治療必要数」を意味し、簡単に言えば「1人が病気にならないためには、その治療(薬)を何人が受ければよいのか」を示す数字です。「いったい何人に一人の確率で治療が有効であるのか」のかを示す数字とも言えます。
NNTの値が小さいほど治療が有効である確率が高く、仮にNNT=1だとするとすべての人に治療が有効であるということになります。言わばこれは「百発百中の薬」ですね。すべての薬がそうであればいいのですが、残念ながら実際にはそういう薬はほとんどありません。
ある病気で、薬Aを使った場合のNNTが10、薬Bを使った場合のNNTが5だとします。Aは10人の人に使って1人に効いた、Bは5人の人に使って1人に効いたということです。ということは、同じ病気ならBのほうがよく効くということになります。
何らかの理由があってNNTが大きくても使うべき薬なのか、NNTが小さいため「ここはぜひとも使わなきゃ損だぞ」という薬なのかといった評価は、結局使う人が決めることになります。
薬は本当に必要なときに賢く使うべき
NNTは、ある薬の「コストパフォーマンス(コスパ)」を把握するには役立ちそうですね。よく使われる定番のお薬(血圧降下剤やコレステロール降下剤)でも、実は意外にNNTが大きい(コスパが悪い)ということは申し上げておきましょう(NNT=20~50は珍しくない)。
以前、「BMJ: British Medical Journal」という世界的医学誌に載った論文には、合併症予防に対する抗生物質のNNTは4,000を超えることが報告されていました。これは1人の合併症を予防するためには4,000人に抗生物質を使う必要があるということを意味します。同じ1/4,000ならば、宝くじが当たる方がうれしいと思う人もいるでしょうね。
医療(薬剤)経済的に見てコスパが悪いということは、一般の人にとってはやはり「薬九層倍」だなぁと思われるかもしれません。「本当に効く薬はここ一番、必要なときに頭を使って正しく使う」ということを忘れないようにしましょう。薬の無駄使いは体にも財布にも優しくないのです。
今回はEBMの根幹とも呼べそうなRCTとNNTについてお伝えしました。薬を選ぶとき、このような根っこの仕組みを覚えておくのはよいことです。知っていて損のない略号なので、この機会に覚えてしまいましょう。
この連載も今回でいったん終了です。またお目にかかる日までさようなら。
※写真と本文は関係ありません
筆者プロフィール: フリードリヒ2世
薬剤師。京都薬科大学薬学部生物薬学科卒。徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程単位取得退学。映画と海外ミステリーを愛す。Facebookアカウントは「Genshint」。主な著書・訳書に『共著 実務文書で学ぶ薬学英語 (医学英語シリーズ)』(アルク)、『監訳 21世紀の薬剤師―エビデンスに基づく薬学(EBP)入門 Phil Wiffen著』(じほう)、『共訳 患者は何でも知っている(EBM ライブラリー) J.A.ミュア・グレイ著』(中山書店)がある。