前出の「第三次機能」が科学的に明らかにされ、これらの体調節機能を十分に発現できるよう加工された食品を、一般に日本では「機能性食品」と呼んでいます。しかし、法律上の定義はすこし曖昧で、実際に科学的な根拠を基に「健康の保持増進効果」があるといわれているものから、そうでないものまでを含みます。
機能性食品は世界で初めて日本で定義された概念だそうです。これらの中には、国が定めた有効性や安全性に関する基準などを満たした「保健機能食品」があり、制度として保健機能食品制度があることは、以前コラムにも書いたとおりです。
このように食品単体で健康に寄与するのであれば、薬と一緒に活用すればさらなる健康の保持増進が見込めるのでは……と思う人もいるかもしれません。ただ、そう簡単に一筋縄ではいかないのが現実です。
例えば、「お茶」「コーヒー」「牛乳」「アルコール(お酒)」「フルーツジュース」などと一緒に薬を服用するのは避けた方でよいです。食べ物との併用リスクを知らずに薬を服用してしまうと、健康を害する場合もあるのです。
もう少し詳しく「薬と食品の相互作用」を以下に抜粋してまとめましたので、参考にしてみてください。
チーズ×セレギリン(抗パーキンソン剤)・シメチジン(消化性潰瘍用剤)・イソニアジド(抗結核剤)・イミプラミン(抗うつ・抗不安薬)
チーズは「チラミン」の含有量が多い食品です。上記のような薬剤は、チーズに大量に含まれているチラミンの分解を妨害するため、チラミン中毒(顔面紅潮、頭痛、急激な血圧上昇などの症状)が発現する可能性があります。
このような薬を常用している人は、チーズ以外のチラミンの含有量が多い食品(ニシン、たらこなど)や嗜好品(ビール、ワインなど)の過剰摂取も避けたほうがいいでしょう。
脂身の多い肉×脂溶性医薬品(脂に溶けやすい薬)
医薬品は水溶性(水に溶けやすい)のものが比較的多いのですが、脂溶性(脂に溶けやすい)のものもあります。脂肪の多い食品を食べすぎると、薬が食品中の脂肪に溶けて薬の吸収がよくなりすぎる(効果が強く出すぎる)ことがあります。しかし、薬を飲む際にいちいち「この薬は水溶性か脂溶性か」なんて考えて飲みませんよね。添付文書には薬の性状も書いてあるのですが。
クロレラ・納豆・緑色野菜×ワルファリン(血液凝固阻止剤)
クロレラはビタミンKが大量に含まれる食品です。納豆にもビタミンKが多く含まれています。医薬品のワルファリンは、肝臓でビタミンK依存性の血液凝固因子を阻害して、抗凝血作用・血栓形成回避の目的でよく使われます。
クロレラや納豆の摂取は、ワルファリンを服用している患者さんでは薬の効果を弱めてしまい血液凝固が起こりやすくなります。また、ビタミンKを多く含む緑黄色野菜(パセリなど)も、ワルファリンを服用している患者さんでは一時的に大量摂取しないことが望ましいといえます。緑黄色野菜が主原料となっている青汁などの大量摂取についても要注意です。
ヒスチジンを多く含む食品×イソニアジド/イソニアジドメタスルホン酸(結核の薬)
ヒスチジンを多く含む食品としては、マグロ・イワシ・ハマチ・サバ・ブリなどの魚があります。ヒスチジンの摂りすぎは、ヒスタミンの過剰摂取と同じです(イソニアジドはヒスタミンの代謝酵素を減らします)。ヒスタミンといえば、身体の中でさまざまなアレルギー症状を起こすことで有名な物質(本来は生体防御反応なのですが)。これが体内で増えすぎると困りますよね。
以上、可能性としては「食品と薬の相互作用」は他にもいろいろ考えられるのですが、これぐらいにとどめておきます。
というのも、「一つの食べ物をよほど大量に一気に食べない限り(普通の食事をしている限り)、薬との相互作用はそれほど心配することはない」からです。チーズや納豆の無茶食いをして、そのタイミングで偶然、前述のような薬を飲んでいる場合は気をつけたほうがいいですが……。
最後に、以前「Science」という世界的権威のある科学雑誌に掲載された、ちょっと面白い医学論文をご紹介しましょう。
「炭焼きステーキを4日間食べ続けると、ヒトの小腸にあるシトクロームP450と呼ばれる薬物を分解する酵素が活性化し、解熱鎮痛薬の(風邪薬にもよく配合されている)フェナセチンが腸から吸収される途中で次々に分解されてしまう」というのです。これでは薬が効きにくくなってしまいます。
ただ、なぜステーキが「炭焼き」なのかはわかりません。原論文には確かに「charcoal-broiled beef(炭火焼きの肉)」と書いてあります。やっぱり、お肉は炭焼きのほうがおいしいからでしょうか……。
それにしても、「医食同源」「薬食同源」という言葉は東洋(東アジア)が生んだ含蓄のある言葉だと思います。食べ物は薬同然、いや時には薬以上に「身体に効く」ものだからです。
※写真と本文は関係ありません
筆者プロフィール: フリードリヒ2世
薬剤師。京都薬科大学薬学部生物薬学科卒。徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程単位取得退学。映画と海外ミステリーを愛す。Facebookアカウントは「Genshint」。主な著書・訳書に『共著 実務文書で学ぶ薬学英語 (医学英語シリーズ)』(アルク)、『監訳 21世紀の薬剤師―エビデンスに基づく薬学(EBP)入門 Phil Wiffen著』(じほう)、『共訳 患者は何でも知っている(EBM ライブラリー) J.A.ミュア・グレイ著』(中山書店)がある。