Dさんは新幹線で自由席の切符しか持っていないのに、乗務員に無断で指定席に乗車しています。ご本人としては「足が悪いから立っているのは耐えられない」「次の停車駅までは指定席のお客さんが乗ってこないから大丈夫」などと考えておられますが、法的な問題はないのでしょうか?
実はこのような場合、JRとの契約違反になり、トラブルにつながる可能性も大いにあります。以下で詳しくみていきましょう。
JRとの契約は自由席での旅客運送契約
一般に乗客が切符を購入して電車や新幹線に乗るとき、客と鉄道会社との間には「旅客運送契約」が成立しています。
旅客運送契約とは、鉄道会社などの旅客運送業者がお客さんを乗り物などに乗せて場所を移動させることを目的にする契約です。その契約にもとづき、鉄道会社は電車や新幹線で旅客を運び、お客さんはその対価として乗車料金を払います。
旅客運送契約では、運送業者が客を一定の目的地まで運ぶことと、その対価として客が乗車代金を払うことが契約内容として定められます。「客がどのような種類の座席に座るのか」や「代金額はいくらか」も契約内容によって定まります。
客が自由席の切符を買って新幹線に乗る場合、客は「自由席であればどこでも座って良い権利」を得ることができますが、「指定席に座る権利」は取得できません。支払った金額も自由席に見合った額だけであり、指定席についての料金は払っていないので当然です。
Dさんのように自由席切符を購入した場合、JRとの契約内容からしても「自由席に乗る権利」しか与えられないので、勝手に指定席に座ることは認められません。たとえ誰も指定席に座っていないとしても、指定席に座ることは契約内容になっていないので、無断で座ると契約違反となってしまいます。
無断で指定席に乗車していたらどうなるか
では今回のDさんのように無断で指定席に乗車していたら、どのような問題が起こるのでしょうか?
退去請求される
まずJRはDさんに対し指定席からの退去請求をできます。Dさんは指定席に座る権利を購入していないのですから当然です。
鉄道営業法第42条にも、「有効な乗車券を所持しない人に対し、鉄道係員は退去請求できる」という規定があります。そこでDさんがこのまま指定席に座り続けていたら、切符の点検などの際にJRの乗務員に見つかって退去を求められる可能性があります
損害賠償請求される可能性もある
そのままDさんが指定席に座り続けていると、JRから損害賠償請求をされるおそれもあるので注意が必要です。
Dさんは「指定席に誰も座っていない、名古屋駅までは誰も乗ってこない」と思っていますが、たまたま指定席の切符の持ち主(真の権利者)が席を外しているだけかもしれません。5分や10分後、真の権利者がその席にやってくる可能性もあります。
そのときDさんが座席を占拠しているため権利者が席に座れず、結局立ったまま目的地に行く羽目になったらどうでしょう? 権利者はきちんとJRに代金を払って指定席切符を購入したのに、約束に反して指定席に座れなかったのですから、真の権利者がDさんに対し、直接不法行為にもとづく損害賠償請求を行うでしょう。そうなったら、Dさんは請求に応じて真の権利者へ賠償金を払わざるをえません。また、JRから損害賠償請求される可能性もあります。
以上のように、自由席の切符しか持たないのに勝手に指定席に乗っていると、法的な責任が発生してしまう可能性があるので、決してやってはいけません。
その場で大きなトラブルになるケースも
無断で指定席に乗車した場合、法的な責任だけではなく事実上の大きなトラブルにつながる可能性もあります。
Dさんは「名古屋まで誰も乗ってこない」と考えていますが、それはたまたまその場に人がいなかっただけで、先述のように真の権利者が後からやってくるケースは少なくありません。実際に、インターネットの掲示板などにも「指定席の切符を買ったのに、席に行ったら不法占拠されていた」などと書き込んでいる人が多数見受けられます。
真の権利者がDさんを見つけたとき、腹を立ててDさんを怒鳴りつけたり、慰謝料を請求したりするおそれもないとは言えません。こうした事実上のトラブルを避けるためにも、無断で指定席に乗車するべきではありません。