本件のように客が店にしつこく居座り続けたら、店に対する「業務妨害罪」(刑法第233条、第234条)にならないのでしょうか?

業務妨害罪が成立するには「威力」か「偽計」が用いられる必要があります。威力とは強い威勢を示すことなど、客観的にいて被害者の自由意思を制圧するに足る勢力のことで、偽計とは人を騙したり錯誤に乗じたり虚偽の噂を流したりすることです。

たとえば飲食店の客が集団で店に対し「絶対に出ていかないぞ!」などと大声で威圧したために店側が退去を求められなくなり、他のお客さんが怖がって帰ってしまったりすると威力業務妨害罪が成立する可能性があります。

本件の女性客の場合には、威力も偽計も使っていないので業務妨害罪は成立しません。

民事の損害賠償責任について

お店に客が居座ると、次のお客さんを入れることができません。すると店側に売上げ低下などの損害が発生する可能性があります。その損害賠償を居座った客に求めることは可能なのでしょうか?

店が客に損害賠償を求めるには、客に債務不履行や不法行為などの法的責任が発生する必要があります。飲食店の客の債務は基本的に「代金を支払う」ことです。「食べたらすぐに退去すること」までは通常義務になっていないと考えられます。そこで、食後15分程度話し込んだからと言って一般的には債務不履行にはならないでしょう。

不法行為についても同様で、食後15分程度話し込んだことが「故意過失による違法行為」とまでは言えないので、不法行為にもとづく損害賠償請求も不可能です。

店側のベストな対応は?

今回のケースでは、女性客には民事でも刑事でも法的責任は発生しないと考えられます。

しかしそれでは、店側は「納得できない」「居座られて何も言えないのは困る」と思われるでしょう。その場合、店側としては客から見えるわかりやすい場所に「繁忙時には食後10分以内に退店をお願いします」などと貼り紙をしておけばよかったと考えられます。

そのような注意書きをしておけば、客もそれを了解して店で食事をする以上、食後10分以内の退店を客の道義的義務として店が強く要求することができるからです。

貼り紙をしたからと言って10分以上話し込んだらすぐに「不退去罪」が成立することはないと思いますが、少なくとも女性客らに対し強く退店を求めることができたと思います。また、店で食事をしながら友人たちと話をしたい今回の女性客のような客が入店することを防げるでしょう。

おそらく、今回の女性客は、食後すぐに退去しないといけない店だとわかっていれば入店しなかったと思われますので、張り紙をすることは、店側にとっても、客にとっても、お互いに利益があるのではないでしょうか。

まとめ

多くのお客さんが訪れてはやっている忙しいお店でお客に居座られたくない場合、早期退店を促す注意書きをしておくことをお勧めします。

※記事内で紹介しているストーリーはフィクションです

※写真と本文は関係ありません

監修者プロフィール: 安部直子(あべ なおこ)

東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に離婚問題を数多く取り扱う。離婚問題を「家族にとっての再スタート」と考え、依頼者とのコミュニケーションを大切にしながら、依頼者やその子どもが前を向いて再スタートを切れるような解決に努めている。弁護士としての信念は、「ドアは開くまで叩く」。著書に「調査・慰謝料・離婚への最強アドバイス」(中央経済社)がある。