「ゲームソフトを借りていった友人が翌日に引っ越しをし、ゲームソフトが戻ってこなかった」――。こういった理不尽な状況に遭遇して沸々とした怒りを覚えた経験を持つ人もいるのではないだろうか。
このケースのように、日々の生活において社会通念上、「モラルに反するのではないか」と感じる出来事に遭遇する機会は意外と少なくない。そして、モラルに欠ける、あるいは反していると思しき行為であればあるだけ、法律に抵触しているリスクも高まる。言い換えれば、私たちは知らず知らずのうちに法律違反をしている可能性があるということだ。
そのような事態を避けるべく、本連載では「人道的にアウト」と思えるような行為が法律に抵触しているかどうかを、法律のプロである弁護士にジャッジしてもらう。今回のテーマは「人気飲食店での居座り」だ。
45歳の女性・Tさんは、都内で3店舗のラーメン店を経営している。あごだしでとった濃厚な魚介スープとやわらかな極厚チャーシュー、自慢の自家製麺を用いた特製ラーメンが人気で、この看板メニューを求めてお店は連日、大盛況だった。
そんなある日のランチタイム時、いつも通り店内は満席で店の外には入店を心待ちにしている多くの客が列をなしていた。その列を見て、「すいませんが、もうしばらくお待ちください――」と心の中でつぶやいたTさんがふと店の奥のテーブル席に視線を移すと、笑顔で談笑している4人組の女性グループが見えた。目の前には空の器が置かれており、どう考えても食後のおしゃべりを楽しんでいるようにしかみえない。「きっともう女子トークも終わるだろうし、店の外で待っているお客さんの姿を察して、すぐにお会計に入ってくれるわよね」。そう思って再びラーメンづくりに戻ったTさんだが、15分ほど経った頃にあの4人組が気になり、再び店内の様子を見に厨房から出てくると、いまだに女性たちは話し込んでいた。
外で待っている人たちの気持ちを考えると、これ以上は看過できないと感じたTさんは、従業員に「お会計をやんわりと促してきて」と伝えた。ところが、テーブル席から戻ってきた従業員はTさんに「あのお客様たちが『店長を呼んできて』と話しています」と告げた。Tさんがテーブル席へ向かうと、4人組のリーダーとみられるショートボブの女性がやや高圧的な態度で「この店は、食事を終えたすべてのお客に対して『さっさと出ていけ』と言うのかしら」と尋ねた。「気分を害されてしまわれたのであれば申し訳ございません。ただ、外でお待ちの方がいらっしゃいますし、お客様たちは食事がお済みになってから結構な時間が経っているようなので……」とTさんが言った瞬間、その言葉を遮るように先ほどの女性が「『結構な時間』って具体的にどれぐらいなのでしょうか?」と聞いてきた。
Tさんが「詳細な時間はわかりかねますが、15分ほどかと思います」と返すと、「例えば、店内に『食事が済んだ方は5分以内に退店してください』と明記されている状態で私たちが食後に10分とか20分も居座ったとしたら、それは私たちが悪いかもしれませんが、特にそのような但し書きもされていないですよね?」とショートボブの女性が反論してきた。「確かにそうですが……」と言葉に窮するTさんを見たその女性は、「それに私たちは、あなたたちに『帰ってください』と言われる直前に『もう出ましょうか』と話していたばかりなのに……。もういいわ、なんか気分が悪くなったのでもう出るから」とあきれ気味に言い放った後、会計を済まして退店した。結果的に女性グループを追い払うことには成功したが、一方的に嫌味を言われる形となったTさんはどうにも釈然としない気持ちになった。
このようなケースでは、女性グループのメンバーは何らかの法律違反をしているのだろうか。安部直子弁護士に聞いてみた。