Fさんの勤め先のデパートにしょっちゅうやってきて試食品を大量に食べてしまう中年女性の行為には、何か法的な問題があるのでしょうか?
デパ地下やスーパーでは、Fさんの職場のように「試食」が提供されているケースがよくあります。試食はお客さんに無償で提供されるものなので、食べても違法ではありません。1つといわず2つ、3つくらいであれば違法になることはないでしょう。しかし、1人が一度に大量に食べると問題があります。
試食とは、あくまで「購入するか否かを判断するために、試しに味見すること」であり、「お腹を満たすこと」が目的ではありません。お店側は1人が一度に試食品を大量に食べることは予定しておらず、「味見のために無償で食べるのはかまわないが、1人で大量に食べ尽くしてしまうことは許していない」のが通常です。そこで、お客さんが試食品を想定外に食べ尽くしてしまうと店側の許可の範囲を超えるので、違法になる可能性があります。
窃盗罪が成立する可能性
試食品の食べ過ぎが違法になるとして、どのような犯罪が成立するのでしょうか?
まず問題になるのが「窃盗罪」(刑法第235条)です。窃盗罪は「他人の占有するものを勝手にとって自分のものにしてしまったとき」に成立する犯罪です。デパートやスーパーの商品を勝手に盗ったら「窃盗罪」が成立します。万引きなどは典型的な窃盗行為です。食品についても、自分に正当な権利がないのに勝手に食べたり持ち帰ったりしたときに「窃盗」となります。
試食品の場合、「1つ2つなら食べても良い」という店側の許可がありますが、試食の範囲を超えて大量に食べることまでは許可されていません。食品の所有者・占有者であるお店側の許可がないのに試食品を何度も食べ尽くすことは「店側の意思に反して自分のものにした」といえるので、窃盗罪が成立します。窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」です(刑法第235条)。
どこからが窃盗罪か
デパ地下の試食品を大量に食べる人がいたとして、実際に「どこからが窃盗罪か」という判断は非常に困難です。「2、3個までなら良いとしても5個ならダメ」なのか、「10個から違法」なのか、はたまた「出されているものを全部食べたら違法なのか」など、一概に決められません。では、どこからが窃盗罪になるのでしょうか?
その場で大量に食べた場合の違法性
一般的には「通常、提供している店側の想定を大幅に超える程度に大量に食べた場合であって、商品を購入しなかった場合」に違法になると考えられます。たとえば試食のミートローフを15個、20個と食べてその場に出ているものを食べ尽くしたら窃盗罪になる可能性が高いといえるでしょう。今回の場合のように、1度ではなく何度もやってきて、かつ、一度食べつくしたうえでさらに再度、用意された試食のミートローフをまた大量に食べた場合、より違法性が強まります。
「違法かどうか」の具体的な判断は、食品の性質や種類、食べた量、当該試食品となった商品の購入の可否などに応じて個別に行う必要があるでしょう。
試食品を持ち帰ると窃盗罪になる
「試食品を持ち帰った場合」には窃盗罪が成立します。試食とはあくまで「その場で味見をすること」であり「持ち帰り」は予定されていないからです。持ち帰るのは「万引き」と同じなので、警察に通報されても文句を言えません。「試食品は無料だから持ち帰っても良い」という考えは誤りです。
持ち帰りによって逮捕された事例もある
実際に、試食品ではありませんが、持ち帰りによって警察に逮捕された事例もあります。ニュースにもなったようですが、かつてスーパーで無償提供されている氷を大量に持ち帰ろうとした人が逮捕されました。当然のことながら、試食品も、氷も、提供するのにはお金がかかっています。あまりに非常識な行動をとっていると、逮捕が現実化する可能性があると覚えておきましょう。