「ゲームソフトを借りていった友人が翌日に引っ越しをし、ゲームソフトが戻ってこなかった」――。こういった理不尽な状況に遭遇して沸々とした怒りを覚えた経験を持つ人もいるのではないだろうか。

このケースのように、日々の生活において社会通念上、「モラルに反するのではないか」と感じる出来事に遭遇する機会は意外と少なくない。そして、モラルに欠ける、あるいは反していると思しき行為であればあるだけ、法律に抵触しているリスクも高まる。言い換えれば、私たちは知らず知らずのうちに法律違反をしている可能性があるということだ。

そのような事態を避けるべく、本連載では「人道的にアウト」と思えるような行為が法律に抵触しているかどうかを、法律のプロである弁護士にジャッジしてもらう。今回のテーマは「トイレの不法占拠」だ。

  • 泥酔してトイレに数時間居座り、他の客に迷惑をかけるのは法律的にセーフ? アウト??

28歳のCさんは都内で居酒屋を経営している。提供する料理はどれも自信を持っているが、特にお客から好評なのが新鮮な鴨肉を用いた鴨鍋だ。寒い時期になるとこの旬の味を求め、多くの人が遠方から店に足を運ぶ。忘年会や新年会が続く年末年始は、Cさんの店にとってまさに書き入れ時となる。

そんな年の瀬の迫ったある日、お店は得意客をはじめとする予約客で満員となっており、Cさんもフル回転でオーダーをさばいていた。20時を回り、いよいよ忙しさがピークに達しようとするその矢先、店員が近寄ってきてCさんに「トイレが開きません……」と声をかけてきた。2つあるうちのトイレの1つは運悪く前日に故障して使用不能になっており、残りの1つのトイレが内側から鍵を閉められた状態でいくら経っても中から人が出てきた気配がないという。現場に駆け付けたCさんは「コンコンコン」とノック。続けて「どなたか入っていらっしゃるのですか? もうずいぶんと出てこられないようですが、何かありましたか?」と問いかけても、何の反応もなかった。内側から鍵がかかっている以上、誰かが中にいるのは間違いない。ただ、いつ出てくるかわからず、コミュニケーションもとれない以上、他の客がいつになったらトイレを使用できるかわからない――。

料理の提供をしないといけないCさんは、店員の1人に引き続きトイレ内に呼びかけるよう促した。同時に、どうしても「急を要する人」には徒歩5ほどの場所にある最寄りのコンビニを案内し、そこで用を足してもらうよう誘導しろと指示して厨房に戻った。事情を知ったお客は寒風吹きすさぶ中、往復約10分かけてトイレに行くはめに。その中には、得意客のBさんもいた。酔いも回っていたのだろうか、Bさんは帰り際、Cさんに「トイレが使えない店なんか二度と来るか!」と吐き捨てた。上客であるBさんにそのような辛辣な言葉を浴びせられ、Cさんは心を痛めた。Bさん以外にも、不平不満を言った客は少なからずいた。

そろそろ店を閉める準備をしだした23時過ぎ、おもむろにあの「開かずのトイレ」のドアが開いた。中から出てきたのは、1人で来店していたサラリーマン。飲みすぎてトイレで吐いているうちに、そのままトイレ内で数時間寝込んでしまったようだ。思わぬ形でトイレを「不法占拠」された揚げ句、得意客であるBさんをはじめとする多くの客からクレームを言われたCさんは、「こいつのせいで……」と湧き上がってくる怒りをこらえることができなかった。

このようなケースでは、サラリーマンの行為は法律違反にあたるのだろうか。安部直子弁護士に聞いてみた。