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【答え】メルセデス・ベンツ「300SL」(W198)
正解はメルセデス・ベンツが1954年に世に送り出した高級スポーツカー「300SL」(W198)です。
300SLはシャシーに細い鋼管を組み合わせたマルチチューブラー・スペースフレーム式を採用しています。太く高い位置にあるサイドメンバーが座席の脇を貫通する構造で、結果的にサイドシルが幅広で高い位置になることから、通常の横開きドアだと乗り降りが困難になりかねませんでした。そこで、解決策として登場したのが、ルーフセンターに車体と並行なヒンジを取り付け、地面に垂直な方向に跳ね上げる形のドアだったのです。ドアを開放するとカモメが翼を広げた時の形にそっくりなことから、「ガルウイングドア」と呼ばれるようになりました。
筆者は2014年に英国サリー州にあるメルセデス・ベンツワールドで300SLの助手席に試乗させてもらいました(残念ながらステアリングは握らせてもらえませんでした……)。ガルウイングドアは完璧な整備が行われているおかげで比較的軽くオープンできましたが、大股でこのサイドシルを乗り越えて着座するのはなかなか大変で、座ると肘掛けの位置にこのシルがあってびっくりしました。この時はサーキットを1周してもらいましたが、ボッシュ製の機械式燃料噴射装置を採用した3.0L直列6気筒ガソリン直噴エンジンが発するクラシカルな快音は忘れられません。
性能が第一のスポーツカーなので300SLはこうしたスタイルになったわけですが、やはり購入する富裕層にとっては、スカートやドレス姿の女性を同乗させるのに気を使うため、のちに登場したロードスターバージョンではフレームを再設計し、低い位置で開放できる通常のドアに変更されました。
最近のメルセデスでは、2009年に登場した「SLS AMG」がガルウイングドアを採用していました。筆者も箱根ターンパイクで試乗したことがあります。ガルウイングドアを開けてコックピットに乗り込む、という動作はやはり特別感がありました。ただ、サイドシルは幅広くても高さが300SLほどではないので、それほど苦労なくシートに座ることができました。ロングノーズ・ショートデッキの長いボンネット内に収まる571PS/650Nmの6.2L「M159型」V8エンジンはキレキレで、最新のスーパーモデルたちとはまた異なる迫力がありました。
上方に開くドアを持つスーパーカーとしてはランボルギーニの「クンタッチ」(カウンタック)が有名ですが、コチラはAピラー下部に地面と並行な回転軸を持つヒンジがあり、ドアがほぼ垂直に斜め前方に開くため「シザー(ズ)ドア」と呼ばれています。最新モデルの「レヴエルト」もこの方式を引き継いでいます。
マクラーレンの各モデルや2023年に登場したマツダのコンセプトカー「アイコニックSP」など、外側の斜め前方に持ち上がるドアは「ディヘドラルドア」や「バタフライドア」と呼ばれています。いずれにしても、こうしたドアはスーパーカーの象徴であり、そのスペシャル感はたまらないものがあります。
それでは、次回をお楽しみに!