「日本全国縦断ロケ」の大スケールで魅了
■1位『青い鳥』(TBS系、豊川悦司主演)
つい先日まで、朝ドラ『半分、青い。』(NHK)で偏屈な中年漫画家を演じていた豊川悦司。彼のファンたちが「豊川悦司の最高傑作は何か?」と語り合うとき、当作は『愛していると言ってくれ』(TBS系)を上回る支持を集めるという。
それも納得できるほど、豊川悦司の色男ぶりが際立っていた。豊川が演じたのは、長野県の田舎町で生まれ、地元ひと筋の実直で心優しい駅員・柴田理森。5歳上の兄が事故死し、母も失踪してしまうなどの影を持ち、ある女性との出会いで人生が激変する様子を繊細なタッチで好演した。当時、話題を集めたのは、駅員姿のカッコよさ。シンプルな制服と足長モデル体形、素朴な人柄と時折見せる男らしさのギャップで、女性視聴者を魅了していた。
ストーリーは斬新そのもの。長野県の田舎町で駅員として働く柴田理森(豊川悦司)と、町の権力者・綿貫広務(佐野史郎)の妻・かほり(夏川結衣)の「許されざる愛を描く不倫モノ」と思わせながら、いきなり娘・誌織(鈴木杏)を含めた3人での逃避行がスタート。激怒した広務の追跡により、岩手、八戸、北海道と北へと向かったが、追い詰められたかほりが、崖からの投身自殺……「7話でヒロインが死んでしまう」という意外な展開で視聴者を驚かせた。
その後、理森はすべての責任を背負って刑務所に入り、6年が経過。仮出所した理森と成長した誌織(山田麻衣子)が出会い、今度は下関、鹿児島と南へ向かう旅がはじまる。しかし、それを知った広務が「誘拐だ」と騒ぎ立て、事件になってしまう。「かほりの遺灰をまく」という目的を果たした理森は、再び自ら服役の道を選んだが、4年後に再出所。最後は、南の島で誌織と2人の間に生まれた娘の3人で暮らす様子が描かれた。
上下動の激しい物語を実現すべく、キャストとスタッフは、日本全国を縦断するようにロケを敢行。連ドラ史上に残るスケールの大きさとなり、撮影期間は半年を超え、企画立案から実に2年以上の日々を費やしたという。プロデューサー・貴島誠一郎、脚本家・野沢尚、演出・土井裕泰と竹之下寛次。それぞれがクリエイティブな仕事を追求したからこそ、ここまでのスケールになったのだろう。
理森、かほり、広務のトライアングルだけでなく、周囲のキャラクターも魅力十分だった。理森を「駅長さん」と呼び、愛くるしい笑顔を見せる9歳の誌織を演じた鈴木杏と、母の死などでやさぐれながらも理森への愛情を隠せない15・19歳の誌織を演じた山田麻衣子。「長男に死なれ、妻に逃げられ、次男が不倫逃避行で逮捕される」という悲劇の父・柴田憲史を演じた前田吟。幼なじみの理森を思い続け、出所後に告白するも断られてしまう秋本美紀子を演じた永作博美。すべてのピースが美しい映像にフィットしていた。
主題歌はglobe「Wanderin' Destiny」。全盛期の小室サウンドが、サスペンスとせつなさを加速させていた。
『踊る大捜査線』『ラブジェネ』『バージンロード』
あらためて振り返ると平成9年は、中居正広が『最後の恋』(TBS系)、木村拓哉が『ギフト』(フジテレビ系)、『ラブジェネレーション』(フジテレビ系)、稲垣吾郎が『彼』(フジテレビ系)、『恋の片道切符』(日本テレビ系)、草なぎ剛が『いいひと。』(フジテレビ系)、『成田離婚』(フジテレビ系)、香取慎吾が『いちばん大切な人』(TBS系)と、SMAPメンバーがドラマシーンの中心へ躍り出た年だった。
『ロングバケーション』の流れをくむ木村拓哉と松たか子のラブストーリー『ラブジェネレーション』(フジテレビ系、木村拓哉主演、主題歌は大滝詠一「幸せな結末」)。コンプレックスだらけの哲平(木村拓哉)と腰掛けOL・理子(松たか子)の社内恋愛ドラマと思いきや、兄と元カノを含めた四角関係で女性視聴者を熱狂させた。理子の「哲平スケベ」は小さな名言。
犯人との銃撃戦や追跡劇をなくし、警察組織の人間模様にクローズアップした新機軸の刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系、織田裕二主演、主題歌は織田裕二withマキシ・プリースト「Love Somebody」)。平均視聴率は18.2%に留まったが、のちにその斬新かつ骨太な世界観に時代と視聴者が追いつき、映画版が大ヒットとなったのは周知の通り。
未婚の母になりそうな和美(和久井映見)と航空機内で偶然知り合い、婚約者のフリをすることになったルポライター・薫(反町隆史)のラブストーリー『バージンロード』(フジテレビ系、和久井映見主演、主題歌は安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」)。主題歌がクライマックスの結婚式にバシッとハマった。ヒロインの幼少時代を演じたのは、子役時代の大島優子。
「ストーカー」というフレーズの一般化に伴って2作が同時ドラマ化。『ストーカー 逃げきれぬ愛』(日本テレビ系、高岡早紀主演、主題歌は坂本龍一 feauturing Sister M「The Other Side of Love」)は、陰湿なストーカー男を渡部篤郎が演じて出世作に。『ストーカー・誘う女)』(TBS系、陣内孝則主演、主題歌は近藤真彦「愛はひとつ」)は、情緒不安定なストーカー女を雛形あきこが演じて、アイドル女優から脱皮。どちらも誹謗中傷、監禁、傷害、殺人未遂など犯罪のオンパレードで、「80年代の大映ドラマが戻ってきたか」と感じさせた。
不倫というテーマと過激な性描写で大ベストセラーとなった小説を映像化した『失楽園』(日本テレビ系、古谷一行主演、主題歌はZARD「永遠」)。映画版とドラマ版が立て続けに誕生したため、映画版の役所広司と黒木瞳、ドラマ版の古谷一行と川島なお美が、何かと比較された。ただ、どちらもヒットしたものの、予想された以下の性描写で、ブームは続かず。
角川映画のヒロインだった薬師丸ひろ子の連ドラ初主演作『ミセスシンデレラ』(フジテレビ系、薬師丸ひろ子主演、主題歌は藤井フミヤ「DO NOT」)。つれない夫、嫌味ばかりの姑と小姑に囲まれ、子どもを授からない日々の中、逃げた文鳥と遊ぶ音楽家と出会い、恋に落ちる……。まるで専業主婦の願望を描いたような物語で支持を集め、のちに午後の再放送が繰り返された。
当時、初のドラマ化が発表されたとき、北島マヤに安達祐実、月影千草に野際陽子とわかり、「ナイスキャスティング」の声が飛び交った『ガラスの仮面』(テレビ朝日系、安達祐実主演、主題歌はB’z「Calling」)。半年後には第2シリーズが放送されるなど反響を集め、その後リメイクされていないところに、「いかにドラマ化の難しい作品か」がうかがえる。
■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。