女性脚本家の躍進を切り開いた
■1位『想い出にかわるまで』(TBS系、今井美樹主演)
今回も1位は迷わずに、この作品をセレクト。当時は、いわゆる“トレンディドラマ”全盛で、「オシャレでカッコイイ」仕事、恋愛、生活を描くドラマが多かった。
恋愛なら5~6人の恋模様を描く形が主流だったが、当作は三角関係に絞り、しかも女性2人は姉妹というタイトな関係性。さらに、「姉の婚約者を妹が奪う」というエキセントリックな展開を通して女性の業をあぶり出す作風は斬新だった。
ただ、三角関係よりも忘れられないのは、終盤に実家が火事で燃えてしまうシーン。それまで、ヒロイン・るり子(今井美樹)、母・登美子(佐藤オリエ)、弟・清治(大沢樹生)は、父・良夫(伊東四朗)から押さえつけられて窮屈な生活を強いられていた。ドロドロの三角関係がメインの作品ながら、そんなシーンを連ねたのは、「理不尽な父親からの解放」と「家族の再生」が、もう1つのテーマだったからに他ならない。
「家族全員で家が燃える様子を見つめる」このシーンから、るり子の人生と家族の再生がはじまった。ダイアナ・ロスの歌声も含め、ドラマ史に残る名シーンと言えるのではないか。
それにしても、理性的で熟考熟慮の姉・るり子を演じた今井美樹、情熱的で猪突猛進な妹・久美子を演じた松下由樹、高身長・高学歴・高収入の「3高」男・高原を演じた石田純一。いずれもこれ以上ないほどのハマリ役だった。
特に松下は当時21歳の新人ながら、視聴者から批判が殺到するほどの悪役に挑戦。その大胆さと迫力で、メインの今井と石田を食ってしまった感すらある。当作が、めまぐるしく展開が変わり、視聴者の感情を上下させるジェットコースタードラマの先駆けとなったのも、松下の熱演あってこそだろう。
予定調和をよしとしないアンハッピーエンドも含め、先鋭的な脚本は内館牧子によるもの。当作はその後の『週末婚』『汚れた舌』(ともにTBS系)らドロドロ劇につながる作品であり、引いては90年代から現在に至る「女性脚本家の躍進を切り開いた」とも言えるのではないか。さまざまな意味でエポックメイキングな作品だった。
主題歌はダイアナ・ロスの「IF WE HOLD ON TOGETHER」。この成功をきっかけに、平成初期は洋楽の主題歌が続いていくことになる。
新しい時代の幕開けを意識
■平成元年その他の主な作品
あらためてふりかえってみると、平成2年は昭和から続くラブストーリーの流れに加えて、新たな職業のドラマやジェットコースタードラマなど、テーマや舞台が広がった。制作サイドが“90年代”という新しい時代の幕開けを意識していたのかもしれない。
その他の主な作品は以下。
銀行員の社内恋愛と思いきや、恋人が自分の友人と浮気、腹いせに上司と不倫など、終始ドロドロ。にもかかわらず、最後まで「クリスマスをどう過ごすか?」に執着した『クリスマス・イブ』(TBS系、仙道敦子主演、主題歌は辛島美登里「サイレント・イヴ」)。
遊川和彦が脚本を手がけた“ブギ三部作”の第2弾で、緒形直人、的場浩司、織田裕二が大学受験や恋に奮闘する『予備校ブギ』(TBS系、緒形直人主演、主題歌はフリッパーズ・ギター「恋とマシンガン」)。織田裕二だけ二浪なのがミソ。
物語よりも、ひたすらキスを見せつけたオープニングのほうが話題に。友人役で恋の横やりを入れたがる布施博がいい味を出していた『世界で一番君が好き!』(フジテレビ系、浅野温子主演、主題歌はLINDBERG「今すぐKiss Me」。
「姉さん、事件です」「申し訳ございません」でおなじみ、高嶋政伸が演じるホテルマン・赤川一平の物語。ちなみに主演は松方弘樹で、個人的なツボはベルボーイの先輩・北山修二(小野寺丈)。第5シリーズまで続いた『ホテル』(TBS系、松方弘樹主演、主題歌は白鳥英美子「LET THE RIVER RUN」)。
広告代理店の男女が社内恋愛。安田成美、田中美奈子、森尾由美が“オヤジギャル”になり切り、対する吉田栄作、嶋大輔、団優太は欲望むき出し。月9史に残る軽薄さが売りの『キモチいい恋したい!』(フジテレビ系、安田成美主演、主題歌はPINK SAPPHIRE「P.S. I LOVE YOU」)。
藤家芳行(林隆三)をめぐる妻・美冴(篠ひろ子)と愛人・妙子(紺野美沙子)がセクシャルな攻防戦を展開。息子・雄介(吉田栄作)にも迫る妙子の魔性ぶりが圧巻だった『誘惑』(TBS系、篠ひろ子演、主題歌は山下達郎「Endless Game」)。今思えば宇都宮隆は草食系男子っぽかった。
飛ぶ鳥を落とす勢いだったとんねるずと脚本家・倉本聰がタッグ。老舗蕎麦店の問題や異母兄弟にまつわるエピソードなど、さまざまなトピックスを織り込んで叙情的につづった『火の用心』(日本テレビ系、とんねるず主演、主題歌はとんねるず「どうにかなるさ」)。
理子(宮沢りえ)、築(真木蔵人)、貴子(西田ひかる)、正網(大沢健)ら高校生のラブストーリーで、決めゼリフ「ぶっとび~」が一世を風靡した『いつも誰かに恋してるッ』(フジテレビ系、宮沢りえ主演、主題歌は宮沢りえ「NO TITLIST」)。なぜか宮沢の父役は蛭子能収だった。
■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。