――まもなくやってくる令和時代においては、どんなことを意識して番組を制作していきたいと考えていますか?
有田:やはり放送でなくても、インターネットでどこでも映像が見られるようになりますし、NHKさんも同時配信が始まりますから、今後はスマホで見られる機会がますます増えていくんだと思います。そうなったときに、ドキュメンタリー番組を見てもらうためにはどういう形がいいのか、作り方も含めてアンテナを張っていきたいと思っています。
張江:今、テレビを見ている人たちは、3層(50歳以上)を含めて、皆さんスマホをしながら視聴してるんですよ。僕は常にそこを意識して、Twitterでどこまでつぶやかれるのかが勝負だと思うので、ネットで食いついてもらうことも意識しています。だから、「関東一暗い番組が始まる」なんてツイートを見ると、ニヤッとするんです(笑)
有田:『人殺しの息子と呼ばれて…』のときの手応えはすごかったんですか?
張江:そうですね。放送前から、タイムラインがザワザワし始めました。「フジテレビは正気か?」とか「ニセモノが出るんじゃないか?」とか、そういうツイートがものすごい数になっていて、これはすごいことになるんじゃないかという手応えがありましたね。
――番組の内容面ではいかがでしょうか?
有田:やっぱりごまかさないことですね。さきほど張江さんもおっしゃいましたが、テロップやBGM、ワンカット何秒なんだとかどういう構成なのかとか、番組を作る上で考えることはいろいろあると思うんですけど、視聴者であるお客さんをごまかさないということは強く思っています。それさえしっかりしていれば見ていただけるし、伝わるんじゃないかなと思います。
張江:ドキュメンタリーはなくてはならないジャンルだと思うんです。やっぱり、そこに人間が生きていたり、自衛隊の方が国境の海で緊張していたりする姿とか、映像の力ってすごくあるんですよ。だから、これからもちゃんと真面目に作っていかないと、テレビ業界全体がマズいことになるんじゃないかと思います。相手と向き合う能力がないと、ドキュメンタリーだけじゃなくて、バラエティもドラマも作れなくなりますからね。そのためにも、僕はチーフプロデューサーという立場ですが、番組の主人公になる人にはできるだけ会いに行って、きちんと向き合って誠心誠意やっていきたいと思っています。
■制作志望は増えている
――ドキュメンタリー番組の制作を志望する人は増えているんですか?
張江:増えているのは実感します。いろんな制作会社に講演に呼ばれたり、うちの新入社員にも作りたいという人間が増えてきてるんですよ。「『ザ・ノンフィクション』を作りたいです」なんて言う人、初めてですよ(笑)。制作会社さんにしても、利益の出る仕事ではないんですけど、作りたいと言ってくれる人たちが多いのは感じますね。
有田:ドキュメンタリーを作りたいという人間は、一定の母数があるのを実感しますね。これは全くなくならない。しかも、報道だけじゃなくて、バラエティやドラマの制作からも聞くので、ちょっと驚きますね。
張江:系列局の人は、何かを伝えたいという意欲とハングリー精神を感じますよね。うちでは『FNSドキュメンタリー大賞』というのがあるんですが、皆さん一生懸命ですから。
有田:フジテレビさんの系列の東海テレビさんは、映画化(『ヤクザと憲法』『人生フルーツ』など)もされて話題になっていますよね。
張江:やっぱり作ってる人の存在が大きいですよね。東海テレビは阿武野(勝彦)さんが引っ張っている感じがあります。彼らが果たしている役割は大きいと思いますが、毎週レギュラーで作らなければいけない我々も大変ですよ(笑)
●張江泰之
1967年生まれ、北海道出身。中央大学卒業後、90年にNHK入局。『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などを担当し、05年にフジテレビジョン入社。『とくダネ!』やゴールデン帯の特番などを担当し、15年から『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサー。18年から情報制作局情報企画開発センター専任局次長。
●有田泰紀
1968年生まれ、広島県出身。早稲田大学卒業後、91年に日本テレビ放送網入社。報道局社会部で記者を務め、『きょうの出来事』『NEWS ZERO』などの番組を担当し、15年から『NNNドキュメント』プロデューサー、18年からチーフプロデューサー。