――近年、ドラマ視聴率の低迷が叫ばれています。平成初期から高視聴率を連発していた2人は、視聴率をどう見ていますか?

八木:視聴率ってとろうと思ってとれるものではないですよね。民放はそれが商売の基準なので大事なんですけど。僕は、プロデューサーというのは自分の不安材料を1つずつ消していくのが仕事だと思うんです。企画であったり、脚本であったり、キャスティングであったり、宣伝であったり。全部やってみて、それで視聴率が低かったらしょうがないですよ。みなさんとろうと思って作っているのは同じなんですけど、実際にとれるかどうかは、結局は「自分の作りたいものを作る」ことに行きつくんじゃないかと思います。それができていないことが、視聴率がとれていない理由じゃないかと。

山田:私、視聴率大好きなんですよね(笑)。ドラマをやったあと、編成へ行ったのですが、視聴率を作る部署ですから。今だったら「2ケタで合格」と言われますが、「大変なんだな」と思う反面、見ていると「これ、誰が作りたがっているんだろう?」というドラマが多いんですよね。「作りたいものを作る」という前提があった上で、受け入れられたら視聴率がとれると思いますから。

――視聴率がとれていたころは、どんな感じだったのでしょうか?

山田:「2度続けて失敗しなければいい」という感じで、1度失敗しても次に当てればよかったんです。だから作りたいものに挑戦できるし、「作りたいものを作るために、実績として視聴率を求める」ということもできました。

――平成では、視聴率の低迷で、2時間ドラマのレギュラー放送枠が地上波からなくなってしまいました。

山田:悲しいですよね。「今こそ2時間ドラマをやって、サスペンスやミステリーじゃないものもやっていけばいいのにな」と思うんですけど、そういうことに目を向ける編成もいなくなっちゃったのかもしれません。2時間ドラマをサスペンスやミステリーに限定してしまうとつまらない。そうやって限定してしまった中でなくなってしまったのだと思います。次の時代に戻ってくるのも難しいかな…。

八木:僕も『さとうきび畑の唄』(03年、明石家さんま主演)とかをやりましたけど、戦争ドラマは民放から一切なくなって、今はNHKさんだけですから。権利と義務じゃないですけど、戦争ドラマをやるのも放送の使命じゃないかなと思いますね。そういう意味でNHKはなかなかだなと思います。まあ、ビジネスモデルが違いますけど…。

山田:NHKは今、すごいですよね。資金量とか。民放とは全然違います。

八木:これからNHKさん、一人勝ちするんじゃないかと(笑)

■「テレビは文化だ」と思って作ってきた

倉本聰氏

――帯ドラマでは、山田さんが『北の国から』で仕事をした倉本聰さんが脚本を手掛ける『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)がこの春から放送されます。帯ドラマは、NHKの朝ドラが好調の一方、TBS系やフジ系の昼ドラが終了するなど、平成の間にさまざまな動きがありました。

八木:帯ドラマの復活はいいことだと思いますよ。いろんなドラマの可能性があったほうがいいですから。民放は経営というか、費用対効果が最優先になってしまうので、理想論だけでは言えないのですが。でも本当に余裕がなくなってきたのかな。

山田:朝ドラはすごいですよね。「毎朝見る」という視聴者のモチベーションもすごいことだと思います。帯に限らず、すべてのドラマに言えることですが、われわれの時代と違って、地上波が映像メディアに占める割合が変わってきて、今のプロデューサーたちはそういう中で戦っていかなければいけない。自由にドラマ作りができる環境ではない。私たちは「テレビは文化だ」と思って作ってきましたが、今はそういう風に考える人は少ないのかもしれない。

岡田惠和氏

――平成の30年間を振り返って、お互いが担当された作品以外で好きなドラマは何でしょうか?

山田:坂元(裕二)さんの『Mother』(日本テレビ)は、「面白い」と思って見ていましたね。

八木:岡田(惠和)さんが書かれた朝ドラの『ちゅらさん』(NHK)とか、『ひよっこ』(同)とか、いわゆるホームドラマですね。一家そろってそれぞれ感情移入できるキャラクターがいて。そういう意味ではテレビドラマの原点みたいなものですし、いつの時代にも通じるんだと再認識させられました。ホームドラマって一番難しいんですよ。ドラマチックにすぐ人を殺したりできないじゃないですか。だから惹かれるんです。

■令和時代にプロデュースするなら…

――もし、次の令和時代にプロデュースをするなら、どんな作品を手掛けたいですか?

山田:やっぱり青春ドラマとホームドラマかな。例えば、毎年17歳になるのは違う人たちじゃないですか。私自身、青春ドラマを見て「こういうものなんだ」と思いながら大人になっていったので、そういうものは常にテレビで見せてほしいなと思います。それと、「家族は生きる上でもっとも大切なもののひとつ」と思っているので、ホームドラマはやりたいですね。

八木:5年前に『おやじの背中』をやったんですよね。「次はお母さんだ」と思っていたのですが、平均視聴率が9.4%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)で2ケタいかなかったから、編成が「ダメ」となって。だから、それをやりたいと思っていてタイトルも決まっています。サトウハチローさんの『おかあさん』という詩集があるんですけど、その中に「母という字を書いてごらん」という詩があるんですよ。母という字は書く人によってみんな違うし、いろんなお母さんがいるという意味で、ステキだなと。『おやじの背中』は、タイトルだけであとは注文も何もなくて、キャスティングもあとから決まったんです。10人も作家さんがいるので「設定が何本か重なるかな」と思っていたら、見事に全部違っていて感動したんですよ。1つのテーマであれだけ違う10本のドラマができたわけですから、脚本家ってすごいなと。「オリジナルをもっとやるべきだ」とあらためて感じました。

●山田良明
1946年生まれ、大阪府出身。慶応義塾大学卒業後、69年フジテレビジョンに入社し、『北の国から』『君の瞳をタイホする!』『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『愛という名のもとに』『白線流し』などを制作。広報局長、編成制作局長、常務取締役、共同テレビジョン社長などを歴任し、現在は同社相談役。18年に舞台『「新・幕末純情伝」FAKE NEWS』で71歳にして俳優デビューを果たした。

●八木康夫
1950年生まれ、愛知県出身。早稲田大学卒業後、73年東京放送(TBS)に入社。『パパはニュースキャスター』『ブギ』シリーズ 『カミさんの悪口』『協奏曲』『魔女の条件』『オヤジぃ。』などを制作し、10人の脚本家による2015年のオムニバスドラマ『おやじの背中』も話題を集めた。執行役員、取締役などを歴任し、現在は日本大学芸術学部放送学科で非常勤講師を務める。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。