余裕をもって組んだはずの住宅ローンだとしても、思わぬことが起きるのが人生。借り入れた後も日々の管理は重要です。また、万一返せなくなりそうになったときの対処法も記しておきましょう。

生活を見直して支出を減らす

住まいを手に入れれば、家具や照明やカーテンにも凝りたいでしょうし、新居でやりたいこともいろいろあり、生活水準が上がりがちになります。

かつて、1部上場企業の30歳前後の若手社員向けにライフプランニングの講習をしたことがあります。現在の収入と支出、貯蓄高と将来の見込みを入力し、30年ほどの期間の収支を見ていくものです。当然、子どもの教育費やローン返済も想定して入力していきます。

黙って思いのままに入力するのを見守っていたら、ある時期を境に一様に貯蓄残高がマイナスになってしまい、青くなっていました。彼らの年収は決して低くはなく、倒産などは想定していないのに、なぜ計算上で家計が破綻したのでしょうか。

それは入力をする際、「収入は少なく、支出は多めに考える」という心理が働きがちだからです。会社の不測の事態を考慮して収入を低く見積もったのかもしれませんが、毎年の少しずつの違いが将来に大きな差となって、家計が破綻する事態になるのです。正しく入力し直せば、破綻どころか、老後の生活に十分な貯蓄が確保されるのです。

つまり、日々の少しの支出の削減や収入のアップが「塵も積もれば山となる」のごとく、将来に劇的な変化となって現れるのです。「ローンを借りたら生活を絞る」は普通のことだと思います。余分は支出は控えるようにしましょう。

周りの変化に注意する

会社の倒産や返済の滞りの蓄積など、ローン破綻の原因はさまざまです。会社の業績が悪いと感じたら、サイドワークの開始や専業主婦(夫)が働くなど、とにかく早めの対策が肝要です。

私は以前、インキュベーションオフィスを利用していたことがあります。地方の企業が東京進出の足掛かりにしたり、起業間もないベンチャー企業がオフィスとして利用したりするケースが想定されていましたが、蓋を開けてみると20%はサラリーマンだということで、オフィスの開設者も驚いていました。借りている理由の詳細はわかりませんが、潜在的にサイドワークやいつでも起業できる準備をしておく時代が来ているということではないかと思います。

素早い変わり身を心がける

ローンが返せそうもないとわかったら、とにかく直ちに動くことが何よりも重要です。対応が遅れれば遅れるほど、立ち直りが難しくなります。

むしろ、高収入のエリートサラリーマンの方が破綻しやすい要素を持っています。「余裕があるので専業主婦」「子どもは小学校から私立で習い事もいろいろ」「ゴルフや飲み会などの付き合いの支出も多い」など、生活の幅が広がりがちです。また、エリートだという誇りが妨げとなり、生活を変えることに抵抗があり対処が遅れがちです。

だいぶ前ですが、実際にローン破綻したエリート社員の記事を読んだことがあります。会社の業績が悪化してボーナスが少なくなったり、予定していた給与の上昇が見込めなくなったりしたのが破綻要因のようです。妻がすぐに働き、子どもを私立から公立に転校させれば、ローンの返済は可能だったはずです。結局対処が遅れたため、家を失ったうえに退職金を返済に充てるために転職し、子どもは公立に転校という事態になったそうです。

繰り上げ返済で陥りやすいトラブル

60歳くらいまでに完済しようとすると、通常どこかで繰り上げ返済をしなければならないでしょう。ネットバンクでは、いつでも自在に繰り上げ返済できると思いますが、繰り上げ返済は慎重に行ってください。

繰り上げ返済を行えば確かに老後の生活は安定するかもしれませんが、その分現金は少なくなります。突然大きなお金を必要とする事態が起きないとも限りません。手持ちの現金に余力を残して繰り上げ返済を考えてください。

※写真と本文は関係ありません

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。