住まいの取得は若いときの方が有利だと考えています。長く返済期間を設定でき、月々の負担も抑えられるからです。若ければ健康を維持できる確率も高く、収入は多くなくても社会適応力は高いでしょう。教育費の負担や老後の準備もまだ先のことでしょうし、親がまだ現役であれば、万一の場合は一時的に支援も受けられる可能性もあります。
ただし、若ければ収入は決して多くないのが普通です。そのため、住宅取得時にはかなりの比率で住宅取得資金の贈与が行われてきました。本稿では、非課税が適用される生前贈与の中から、「住宅取得資金の贈与の特例」に焦点を当ててみましょう。
歴史の長い住宅取得資金贈与の特例
日本人は、諸外国と比較して住まいの価格が高いと言われています。それにも関わらず住宅取得の意欲が高く、持ち家比率は70%を超えています。70歳以上に限って言えば、その割合は80%を超えます(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯調査〕より)。
「高額」「関連産業が広い」「多くの日本人が取得する」などから、住まいの取得に対する特例は、政府の経済活性化対策の格好の材料となってきました。 昔は、山林などに適用される「五分五乗方式」が住まいの取得の贈与の特例にも適用され、贈与税の暦年課税の基礎控除の5年間分を一括して贈与しても非課税となりました。
当初は60万円が贈与税の暦年課税の基礎控除額でしたので、60万円×5年間=300万円が、住宅取得資金の贈与の特例の非課税枠でした。2001年より、贈与税の暦年課税の基礎控除額が年間60万円から110万円に改正され、110万円×5年間=550万円が非課税枠となりました。
あくまで5年間分の控除額の先取りなので、当然その後の4年間は贈与税の基礎控除は使えません。おそらく経済の活性化のため、より多くの贈与枠を設定する必要に迫られ、2005年をもって五分五乗方式は終了しました。しかし、この五分五乗方式は、金額面や制度面から住宅取得資金の贈与の特例としては、なかなか良い制度だったと思います。
その後は下表のように、次第に非課税枠を少なくしていく政策がとられてきました。ただし、経済のさらなる活性化が必要となれば、さらに高額の非課税枠に改正されることが繰り返されてきたのです。
住宅取得資金の贈与の特例の要件は下記のようになっています。
受贈者の要件
・受贈者が贈与年の1月1日時点で20歳以上であること
・受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること
・原則、贈与の翌年の3月15日までに、対象となる住まいに居住していること、または遅滞なく居住する予定であること
・直系尊属(父母・祖父母)からの贈与であること
その他の要件 ・贈与税の暦年課税または相続時精算課税制度と併用可能 一般住宅700万円の控除+暦年課税基礎控除110万円=810万円まで非課税
一般住宅700万円の控除+相続時精算課税制度非課税枠最大2,500万円=3,200万円まで非課税