政府はかなり昔から生前贈与に関しては、いろいろ特例を設けて親子間の贈与を推奨してきました。それはなぜなのでしょうか。

最も有名なのが「住宅取得に関する贈与の特例」です。住宅取得は消費される金額が高く、経済に対する影響が大きくなります。また、住宅産業は関連する業種が多く、そのすそ野が広いのが特徴です。つまり住宅取得を推進すれば、社会経済が大きく活性化するのです。

そのため古くから、時には「大盤振る舞い」と批判されながらも、政府は経済のテコ入れに住宅取得を活用してきました。住宅ローン控除や住宅取得に関する贈与の特例は、その代表的なものなのです。

また、高度成長期に十分に蓄財できた親世代の預貯金を子どもに贈与させれば、銀行などに死蔵されていた資金が社会に対して使われることになり、結果として社会が活性化します。特例がなければ、税率の高い贈与は簡単には実行されません。実行されない贈与税収入を期待するよりも、社会の活性化に伴う税収アップの方が国にとってメリットがあります。

もちろん、贈与する側にもされる側にもメリットがあります。住宅取得資金を例にすると、親は相続財産として子どもたちに残すよりも、本当に子どもが必要な時期に資金を援助できます。親の代の平均余命からすると、一般的に子ども世代が教育資金やローン返済で家計が苦しくなる時期はまだ親は健在でしょう。

子ども世代からしたら、住宅取得資金の贈与を受ければローン負担が軽くなり、自身の子どもが高校・大学に在学中の家計負担を軽減できます。

生前贈与をする側とされる側の生活設計が重要

次回以降は、贈与の特例を利用して両親や祖父母から贈与を受ける場合の法的基準や、生前贈与のメリット・デメリットの詳細を解説していきます。ただ、いずれの制度も上手に活用するためには、贈与をする側とされる側に先々の長期的生活設計がないと、問題を先送りしかねません。

また、贈与を受けて楽になったからと言って、生活水準を上げてしまっては意味がありません。贈与を受けなかった場合を基準として生活設計をしていけば、贈与がより大きな効果を生むはずです。そうした視点も合わせてお読みいただければと思います。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。