――でも、共通する部分もありますよね? 大原さんが歌うと、演技とはまた違う引き込む力があるというか。演じるのと、演じながら歌うのに違いはありますか?
自分の歌で、演じていない時はありません。私はシンガーソングライターではないので、脚本をいただいて歌っている感覚です。映画では、光枝が歌っている感覚なので歌いやすかったです。撮影では、歌にあまり焦点を当てていませんでした。歌も芝居なので。監督からは「間違えても使うから」と言われていたんですよ。間違える覚悟で歌ったら、一発でOKでした(笑)。
――スタッフには、山田組でお馴染みの方が揃っていたそうですね。
撮影部の近森眞史さん、実は大学の先生なんですよ(笑)。卒業制作の審査員だったんです。こうしてご一緒するのは、今回が初めてでした。録音部にも日芸出身の方がいらっしゃいます。ちなみに、撮影中に卒業を迎えました。出席したかったけど、仕方がないですね(笑)。
――戸田恵梨香さん演じる楓は、管理職的な立場から、光枝やほかの先生を厳しく束ねる役目でした。どのような方でしたか?
初対面で「戸田さんでよかった!」と思いましたし、すごく単純な話、気が合うと思いました。光枝と楓は真逆だけど、子どもを愛する心はふたりの共通点です。心が通じていく中では気が合わなかったらつらいものがあると思うんですけど、とってもすばらしい先輩でした。
――インスタには監督と3人で会食した時の写真がアップされていましたね。監督の頭をかじって、とても楽しそうでした(笑)。
映画の話もたくさんしました(笑)。やっぱりこの映画は、ただの娯楽として観てほしい作品ではなくて。今の時代と重なるというか、時代は違いますが、どこかリンクしているところがあって、今だからこそ伝えたいメッセージも含まれています。
■「悔しかったし、ムカついたし、悲しかった」
――楓は、戦時下でも「文化的生活」を維持することを目指します。この「文化的生活」について、どのような印象を抱いていますか?
光枝を表していると思います。今の大人が忘れがちなこと、というか。この時代の女性たちの生き方が強く、大人に見えるのは、「文化的生活」をとても大切にしているからではないかと思います。でも、光枝自身はそういう言葉をあまり深く考えてないので、演じる上でも意識しないようにしていました。
――今回、大原さんのターニングポイントをうかがいたいのですが、『Quick Japan』(2017年8月発売号)には、決定的に変わった瞬間は「まだない」と書かれていました。あえて挙げるとするのであれば、「ソロデビュー」と『水球ヤンキース』(14・フジ系)だと。
そこから変わってます。1年前に小川絵梨子さん演出の『ファン・ホーム』という舞台に出させていただきました。これは、大きな転機になりましたね。小川さんから、稽古中に同じシーンも何回もやらされて、「なんで私のシーンばかり」と思っていたら、「あんた、人生で傷ついたことないでしょ!」と言われたんです。正直、あの時は「は?何も知らないくせに」と(笑)。でも、すごく見抜く方で、本当にその通りだったんですよね。私は本当に恵まれているので……。ある意味、そこですっごく傷つきました。悔しかったし、ムカついたし、悲しかった。でも、そこでガラッと芝居が変わって、私の中の壁を壊していただいた言葉でした。