大原櫻子の取材に備えて、今さらながらデビュー作を観た。2013年に公開された『カノジョは嘘を愛しすぎてる』は、主演を佐藤健が務め、その相手役となるヒロインをオーディションで選ぶという意欲作だった。大原は5,000人の中からその才能を見出されてスクリーンデビュー。瑞々しい演技の中で際立つ美声に、鳥肌が立った方も多いのではないか。

戸田恵梨香とダブル主演を務める映画『あの日のオルガン』(2月22日公開)は、彼女の真骨頂である「歌」が鍵となる作品だ。戦時下の日本を舞台に、子どもたちの命を守るために日本で初めて保育園を疎開させることに挑んだ保母たちの実話が描かれ、保母たちのリーダーで責任感の強い板倉楓役を戸田が、天真爛漫で音楽好きの保母・野々宮光枝役を大原が演じている。『カノ嘘』から約5年。“映画の歌声”は、どのような進化を遂げているのか。

俳優・女優のターニングポイントに焦点を当てるインタビュー連載「役者の岐路」の第7回。「歌も芝居」と語る大原櫻子の根底には、「ゴールを作らない」生き方と職業観があった。

  • 大原櫻子

    『あの日のオルガン』で戸田恵梨香とダブル主演を務めた大原櫻子 撮影:宮川朋久

■ピアノは弾けてもオルガンは「格闘」

――映画化決定のニュースで、「楽しんで演じられると思います」というコメントを出されていましたね。

戦時中ですが、子どもたちの笑顔も多い作品なので、変に重くなりすぎないように。光枝の天真爛漫さが周囲を明るくする場面もあるので、楽しい撮影になると感じていました。それから直感で、光枝の役柄がすごく自分に合っているんじゃないかなと。この腕白さとか、楓さんに怒られている感じとか、自分にもあったような気がします。結構、人に迷惑をかけて「ごめんなさい!」と謝ることもありましたので、似ているところが比較的多いかなと(笑)。

  • 大原櫻子、夏川結衣

  • 大原櫻子

――「自分に近いような遠い役」ということも書かれていましたね。

光枝は、何事もピュアに感情が出るタイプ。その喜怒哀楽の激しさは、自分にはありません。撮影期間中は、つらいときもありました。というのも、オルガンを弾かなければいけなくて。この映画は撮り終わって音を乗せたりするようなことは、一切ないんですよ。生音で撮影することが前提だったので、そのオルガンの難しさと格闘しました。ピアノは弾けるんですけど、オルガンは足を常にパタパタさせて空気を入れないと音が鳴らなくなっちゃうんですよ。ピアノとは全く別の楽器に触れている感覚でした。休憩時間があったらスタッフルームに行って、練習していました。

  • 大原櫻子

――そういえば、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』をご自身でご覧になった時、「こんな演技してたっけ」と後悔も感じたそうですね。その後に出演した作品で変わっていくものですか。

感想は変わらないです。いつも、「うわー……」って思ってます。『カノ嘘』に関しては「うおー……」です。これ、文字で伝わりませんよね(笑)。『カノ嘘』の時は、何にも知らない状態ですから。マイクの付け方すら分からず、演技って何? みたいな感じだったので。