野原: 皆さんのお話にあるように、おそらくはそれぞれの現場で「こうすればもっと早く覚えられるのに」「こう教えたらわかりやすいのに」というアイディアはありつつも、それを広く実行できていないのが現状と思います。そうした課題は、今後DXを推し進めることで改善ができるのでしょうか。
東: デジタルうんぬんの前に慣習やルールの見直しが先のような気がしますね。今の建設現場は昔ながらの生産性が低いやり方がたくさんあります。しかも元請けも、そのやり方を続けなければいけない理由を説明できないものが多くあります。
徳島: ラジオ体操なんて最たる例だと思います。仕事を始める前にラジオ体操をやるのはいいことだと思うのですが、とても手を広げられないような狭いところに集められたときでも必ずラジオ体操の時間はあります。慣習としてラジオ体操の時間は設けられるのでしょうが、これでは時間をとる意味がありません。
他にも、たった2段の朝礼台に登る時に、毎回「足元よし!」と言わせるのも無駄だと感じます。環境や状況に関係なく続けているだけの古いしきたりや作法は、見直した方がいいと思います。
東: 私が働いている場所で言うと、重機の停車中には後方部に「停車中」というステッカーを貼るのが決まりになっています。先日、ガラ山の上に重機を止めないといけなかったのですが、それでも鉄筋とかがたくさん飛び出しているガラ山を歩いて、後方に回ってステッカーを貼らないといけませんでした。
安全確認のためのステッカーのはずなのに、貼る行為そのものが危ないですよね。しかし、昔からやってきた決まりごとだからやらないといけない。こういった理不尽なルールは、至るところに残っていると思います。
渡邊: 考え方が古いというか、止まっている感じですよね。こういう非効率なルールを残すような体質が、若手が増えない理由のひとつにつながっていると思います。
野原: 非効率なルールが非常に多いというお話をしていただきました。その一方で、デジタル機器の導入や器具のバージョンアップなどで作業効率が上がっている面もあると思います。身近なところで、新しいツールが効率アップにつながった事例はどんなものがありますか?
徳島: 小さいことを含めるとたくさんあります。私の仕事で言うと、塗料の定着を良くするために鉄部分のサビや汚れを削り落とす「ケレン」という作業があるのですが、新しい電動工具の登場により効率化が進んでいます。
一方で、他の業界で起きているようなDXによる変化はまだないので、新築の現場にはもっとロボットが入ってきてもいい、とは常々思っています。海外の現場では便利な器具や機械、デジタルツールが増えているみたいなので、もっと日本にも入ってきてほしいですね。
渡邊: 確かに道具は良くなりました。昔と比べると、コードレスになってバッテリー式のものがすごく増えたと思います。どこでも使えるようになったのはもちろん、コードに引っかけることがなくなったので安全性も間違いなく上がっていますよね。ただ、その分、値段も高くなったので、道具を揃えるのが大変になったのが少し悩みどころです。
東: 私は国土交通省の現場がICT施工(※2)だったことがあるんです。ユンボの刃先を地面に合わせると自動で高さや勾配が分かるようになっていて、法面整形がすごく簡単にできました。私一人で5キロメートル以上の法面整形ができたのには正直驚きで、新時代とはこういうことだな、と実感しました。本当にICT施工には感動しました。
※2 ICT施工:建設現場にICT(情報通信技術)を導入して、生産性と品質の向上を目指す施工現場のこと
こうした仕組みがもっと一般化されれば女性が重機に乗りやすくなり、建設産業に人を取り込めるようになると思います。