「了解しました」は×、「承知しました」「かしこまりました」は○
上司から口頭で、あるいはメールで指示や要請があった場合に、返答としてよく使われる「了解しました」という表現。これを同僚や後輩に対して使っても、特に差し障りはありませんが、上司や大切な取引先、顧客に対して発するのはNGです。
「了解」という言葉はたとえば、部下が約束の時間に遅れてしまいそうなとき、上司に対して「申し訳ありません。10分ほど遅れます」と連絡した際に上司が「了解。わかった」と返答するときなどに使われる言葉です。つまり上司が許可、容認する場合に使うものです。その「了解」に丁寧語の「しました」「いたしました」をつけても尊敬語にはならず、お客様や上司に対して使うのは失礼にあたります。
この「了解しました」という言葉を目上に使ってはいけないという考え方は、2011年頃から「メールマナー」として言われ始めました。それ以降、上司に対する「了解」の是非についてはさまざまな意見・解説が出ており、「了解しました」を不適切ではないとする方もいらっしゃいます。それでも多くの上司・先輩方が入社時のビジネスマナー教育で、「上司に了解しましたはNG」と指導されている以上、異を唱えることなく、「了解しました」を使わないよう努力することが肝要かと思います。
お客様や目上の方に対しての心づかいという観点に立って、「承知しました」「承知いたしました」「かしこまりました」を使っていきましょう。
「なるほど」は×、「おっしゃるとおりですね」は○
お客様や上司が言ったことを納得して相づちを打つ際に、「なるほど」という言葉を使ってしまう人はかなりいると思います。しかし、「なるほど」は目上の人が目下の人を評価するときに使う言葉です。目上の人に対して言うと見下しているような感じを与えてしまいます。
また、意味としては「たしかに」「まことに」といった同意を表します。相手の話の内容を評価した上で同意するというニュアンスが含まれるため、上司や目上の人に使うと失礼にあたるのです。
その「なるほど」に「です」をつけて、「なるほどですね」という方がいらっしゃいますが、いくら丁寧語をつけても、失礼な使い方が帳消しになるわけではありません。上司やお客様の話に相づちを打つときは、「おっしゃるとおりですね」「たしかにそうですね」といった言葉を選んで同意や同調を表すようにしましょう。
「参考になりました」は×、「勉強になりました」は○
たとえば、部長のプレゼンを聞いて、「すばらしい。自分もそういうプレゼンをしてみたい」と思って言ってしまいがちなのが、「参考になりました」という言葉です。実はこのフレーズも、失礼にあたるケースが往々にしてあるのです。
「参考にする」という言葉は、意図しているかどうかにかかわらず、「自分の考えを既に明確に持っており、それをベースにして、『参考程度に』あなたの話を足しにするよ」という意味になってしまいます。「勉強になりました」という表現を使うようにしましょう。
「感心しました」は×、「感銘を受けました」は○
同じケースで、「感心しました」という言葉を使う人がいます。「感心しました」も、上が下を評価するニュアンスがあるので使うべきではありません。くだけた言い方の「よかったです」も、人を評価する言葉なので目上の人に対してはNGです。このケースでは、たとえば「感銘を受けました」「感動いたしました」といった言葉がふさわしいでしょう。
役不足? それとも力不足??
▼「ご一緒します」は×、「おともいたします」は○
上司に「今日、○○社に挨拶に行くから、君も一緒に行くかね?」と言われたら、あなたはどのような返事をしますか? 「はい、ご一緒します」がつい言ってしまいがちな返事ではないでしょうか。
しかし、この「ご一緒」というのは対等な立場のときに使う言葉です。上司や目上の人に使うべきではありません。さらに丁寧な感じを出そうと、「ご一緒させていただきます」と言う方がいらっしゃいますが、これも間違った使い方です。なかなか使わなくなってしまった言葉ですが、「おともいたします」がふさわしい使い方といえます。
▼「役不足です」は×、「力不足です」は○
たとえば、部長に呼ばれて、「このプロジェクトを君に任せようと思うんだが……」と嬉しい言葉をかけられました。光栄だけど、自分の力量では少し不安。期待してくれた部長への謙遜のつもりで、「私には役不足ですが、精一杯努力します」という返答をしましたが、これはいけません。
「役不足」の正しい意味は、本来のその人の力量よりも低い仕事を与えられること。つまり、「そんな簡単な仕事、私には物足りない」と逆の意味になってしまいます。また、「そんな簡単な仕事を私に課すなんて」という不満を表す言葉にもなります。
「私では力不足かと思いますが、精一杯努力してまいります」と、「力不足」という言葉での対応が正しい使い方になります。
誤った言葉づかいが会社のイメージを損ねることも
いかがでしたでしょうか。「言葉づかい」は、「第一印象を高める5原則」のうちの1つです。心を配り、美しい言葉を話すこと、正しい日本語を話すことで、その人の印象がとても良くなります。
一方、誤った言葉、見当違いの言葉を使っていると、「言葉を知らない人」という評価をくだされ、その人自身の、ひいては会社全体の印象の悪化につながってしまいます。
第3回連載から続けて「敬語」や「上司・お客様に使ってはいけない言葉」など良好な上下関係の構築に必要な言葉についてお話してきました。正しく言葉を使うことは社会人としてとても重要なポイントになりますので、意識をしてみましょう。
著者プロフィール: 江上いずみ(えがみ・いずみ)
筑波大学客員教授・札幌国際大学客員教授・Global Manner Springs代表。東京生まれ。筑波大学附属高等学校から慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1984年日本航空入社。客室乗務員として30年間で約19,000時間を乗務。オリンピック・パラリンピック教育担当講師として全国の小中高校で「おもてなしの心」をテーマに講演。国内外での年間講演数は250回に及び、「おもてなし学」の構築に取り組む。主な著書は「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)、「"心づかい"の極意」(ディスカバートゥエンティワン)