(3)会議室・応接室への案内
お客さまを迎えて担当者に取り次ぎをしたら、お客さまをどちらに通すか指示を受け、その場所に案内します。その応接室、会議室へ案内するわずかな時間も、お客さまに気持ちよく足を運んでいただけるような心づかいが大切です。
(1)行き先を告げる
まず、お客さまを案内する際には、「5階の応接室にご案内します」というように、必ず行き先を告げてからご案内します。目的地を告げないままエレベーターなどに乗るのは不安に感じることもあるかもしれませんので、事前に行き先を伝え安心感を与えるようにしましょう。
(2)廊下を歩く時の先導
廊下を歩く際は、「こちらへどうぞ」と、指先を揃えた手で示します。また自分のお尻をお客さまに向けないよう右斜め前方2~3歩先を歩き、お客さまに中央を歩いていただくようにします。お客さまをご案内するわけですから、一人でスタスタ進むことなく、途中適度に振り返り、お客さまの歩調に合わせるようにしましょう。
(3)階段やエスカレーターでのご案内
一般的に階段やエスカレーターでご案内するときの立ち位置は、「お客さまが上、案内人が下になるようにする」といわれています。つまり、上がるときはお客さまが先、降りるときは案内する側が先です。常にお客さまより下の位置にくるように案内をするということです。
しかし、ビジネスシーンにおいては一概にこのルールを適用しない方が良い場合もあります。例えばスカートをはいている女性のお客さまがいらして、男性に階段やエスカレーターを案内される際、自分のすぐ後ろを男性が上がってくるのは好ましく思わない方もいらっしゃるでしょう。
また、初めていらしたお客さまを先に階段やエスカレーターにお乗りいただくよりは、案内する側が先に上がり、お客さまはその後についてきていただいた方が安心感を与えられます。お客さまが不慣れな場所で先に歩くのは不安かと思いますので、上がる時も下がる時も先にご案内した方が良いという考え方があるわけです。
ただ、先にエスカレーターなどに乗り込む際には、黙って足を進めることのないよう、必ず
「お先に失礼いたします。どうぞお足元にお気をつけください」
などと、相手を気づかう言葉を忘れないようにしましょう。
(4)エレベーターでのご案内
インターネットで「エレベーターに乗る際のマナー」と検索していただくと、案内する側とお客さまではどちらが先に乗るべきかなど、その記事を監修したマナー講師の考え方により、さまざまな解説が出てきます。
A : 乗る時も降りる時も「どうぞ」と言ってお客さまに先に乗り降りしていただく。
B : お客さまが1~2名の時はドアを押さえ、お客さまに先にお乗りいただき、案内者は後から乗る。3人以上の場合は、案内する側が先に乗り込んで、「開」のボタンを押し、お客さまを「どうぞ」と招き入れる。
C : 開いたエレベーターが空の場合と、他に誰か乗っている場合とで、案内する方法が違う。
などが主な説ですが、ここではその諸説の中で一番多くのマナー講師が推奨している「C」の方法をご紹介したいと思います。
エレベーターの前に来たら、案内する側が△▽の上下ボタンを押して待ちます。エレベーター到着まで時間がかかるようだったら、沈黙のまま立ち尽くすことなく
「エレベーターで5階の会議室へご案内いたします」
(酷暑や厳寒の日)「たいへんお暑い中(お寒い中)お越しいただきありがとうございます」
(雨や雪が降っているとき)「今日はお足元が悪い中、お越しいただきありがとうございます」
などと笑顔で声を掛けると、温かい歓迎の気持ちを表すことができます。そして開いたエレベーターの中に誰か乗っているか否かを確認して以下のように案内します。
<中に誰もいない場合>
密室のエレベーターに不審者や不審物がないかどうかなどの安全確認のため、案内する側が先に乗ります。これは、エレベーター内にお客さまを一人にしないという配慮からなる案内の仕方です。
乗り込む際には「お先に失礼いたします」とひと言声を掛けるようにしましょう。
<中に誰か乗っている場合>
来たエレベーターに他に人が乗っているときには、お客さまに「お先にどうぞ」と言葉を掛けて先に入っていただきます。このときに、もう片方の手で、ドアを押さえることを忘れないようにしましょう。
中に入り、操作盤の前に立てるようであれば、ボタン操作をします。既に他の人が操作をしている場合は、「失礼いたします」と言って軽く会釈をし、自分で行き先階のボタンを押します。もし込み合っていて自分でボタンを押すことが難しい場合は
「恐れ入りますが、5階を押していただけますでしょうか」
と操作盤の前に立っている人にお願いをします。操作していただいたら、「ありがとうございます」のひと言を忘れないようにしましょう。
<エレベーター内にも席次がある>
席次の回でもお話したように、エレベーターにも上座と下座があります。会議室や応接室同様、「出入口から遠い方が上座」が原則ですから、操作盤前が末席で、その後ろ、左奥が上座です。そこから時計回りに左奥→右奥→右手前という順番になります。
案内する人はお客さまにお尻を向けないように、操作盤の前に斜めに立つようにしましょう。
<エレベーターを降りるとき>
エレベーターを降りる時は、いかなる場合もお客さまが先です。目的の階に止まったらドアが開く直前に、お客さまが戸惑わないよう
「お降りになりましたら右側(左側)にお進みください」
と進行方向を告げ、ドアが閉まらないようにドアに手をかけます。お客さまが降りたのを確認したら案内する側も続きます。小走りにお客さまの前に進んで、「こちらでございます」とご案内しましょう。
(4)会議室・応接室への入室
担当者に指定された応接室・会議室に着いたら、中に誰もいないとわかっていても、念のため、必ず3回ノックしてから、ドアを開けて中を確認します。別の会議とダブルブッキングしていないか、また不審者がいないかなどの安全性を確認するためです。そして応接室に入る順番はドアの開き方によって違います。
<ドアが外開き(手前に引く)の場合>
ドアが廊下側に開く場合は、外側に立って開いたドアを押さえながら、
「どうぞお入りください」
とお客さまを先にお通しします。
<ドアが内開き(部屋の方へ押す)の場合>
「お先に失礼します」と言って会釈をし、案内する側が先に入室します。 ドアノブを持ち替えてドアが閉まらないように押さえ、「どうぞ」とお客さまを招き入れます。
いずれの場合も、お客さまにお尻を向けないように注意しながら開け閉めし、大きな音を立てないようドアは静かに閉めましょう。
(5)応接室・会議室での席次
応接室にお通ししたら、手でご案内する席を示し、
「どうぞ、こちらにおかけになってお待ちください」
と席次を考えてご案内します。席次は、基本的に出入口から遠い方が上座、近い方が下座ですが、窓から美しい景観や眺望が臨める場合には、
「本日はこちらのお席から満開の桜がご覧いただけますので、どうぞこちらにお座りください」
とひと言声を掛けて、入口側(下座側)をおすすめします。人をもてなす時は、原則だけではなく、その部屋の環境や季節などによって臨機応変に対応することを優先して考えましょう。
お客さまが着席されたら、
「○○は間もなく参りますのでどうぞしばらくお待ちください」
と言い、一礼して退出します。ドアを閉める際にはドアノブをしっかりつかみ、音を立てないよう静かに閉めることで丁寧な印象を与えることができます。
(6)担当者への連絡
お客さまをご案内したら、その旨担当者に
「△△会社の○○様を応接室(会議室)にお通しいたしました」
と伝え、お茶出しの準備に取り掛かります。
いかがでしょうか。受付から応接室までご案内する数分の間にも、お客さまに心地よく思っていただくためのポイントがいくつもあります。
「おもてなし」とはこの方にこういうことをして差し上げたら喜んでくださるだろうな、と思うことをして差し上げること、こういうことを言って差し上げたら喜んでくださるだろうな、と思うことを言って差し上げることです。その「おもてなし」は一律ではなく、相手によって変わりますから、お客さまに合わせた臨機応変な対応と心づかいをもってご案内していきましょう。
次回は応接室にお通ししたお客さまへの「お茶出し」からお伝えしたいと思います。
挿絵 : 木内はな実