3作品が人気を得た要因には、「ギャップ」をうまく活用しているという共通点がみられる。『光る君へ』では、平和そうで現実味のない平安時代の貴族たちを、血肉が通う生々しい存在として描き、『どうする家康』では、過酷な人生を忍耐で乗り切った徳川家康をゆるーく描き、『鎌倉殿の13人』では、血で血を洗う権力争いをコミカルに描いている。そういった「ギャップ」が、日本が誇る長寿コンテンツである大河ドラマにこそ、必要不可欠な要素であるといえそうだ。

2025年の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(5日スタート)では、視聴者を楽しませてくれるどのような「ギャップ」が用意されているのだろうか。横浜流星演じる主人公・蔦屋重三郎は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した版元(※現代でいうところの出版社に近く、書店も兼ねる)だ。18世紀後半の江戸が舞台となっており、この時代が大河ドラマで扱われるのは初めてとなる。

蔦重(つたじゅう)と呼ばれた蔦屋重三郎は、数多くの作家・浮世絵師の作品をプロデュースし、江戸を中心とした町人文化・化政文化の隆盛に大きく寄与した。蔦重は企画・立案・編集・勧誘だけでなく、蔦唐丸(つたのからまる)の名で自ら狂歌や戯作の制作も行うなど、その活動は多岐にわたる。ここからは、そんな「江戸のメディア王」の生涯を描いた『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の見どころを紹介していく。

●見どころ(1)「当時の江戸カルチャー」

大河ドラマでこの時代が描かれるのは初めてということもあり、これまでにない視聴体験が得られることは間違いない。本作の時代考証を務める山村竜也氏は、多くの歴史ものの著作を執筆しており、大河ドラマでは2004年『新選組!』、2010年『龍馬伝』、2013年『八重の桜』、2018年『西郷どん』の時代考証を務めた。江戸時代の文化に精通している山村氏が制作に参加することで、江戸カルチャーの魅力が余すところなく展開されると期待している。

当時のカルチャーには、日々の出来事や社会風刺を皮肉や洒落で表現した短歌である「狂歌」。洒落本・滑稽本・談義本・人情本・読本・草双紙など、通俗小説の「戯作」。美女や役者、武将などを色鮮やかに描いた「浮世絵」などがあるが、現代人にはあまりなじみがない。だが、本作を視聴すれば江戸の町人文化について楽しみながら詳しくなれることうけあいだ。

●見どころ(2)「豪華なキャスティング」

大河ドラマといえば豪華すぎるキャスティングが毎年話題となるが、今年も負けていない。大河ドラマ主演経験者では田沼意次役の渡辺謙(1987年『独眼竜政宗』)と、語りの綾瀬はるか(2013年『八重の桜』)が出演する。大物クラスでは須原屋市兵衛役の里見浩太朗や松平武元役の石坂浩二。この4人は画面に出てきただけ(綾瀬は声だけかも知れないが)で圧倒されてしまいそうだ。

主演クラスでは一橋治済役の生田斗真、喜多川歌麿役の染谷将太、鳥山検校役の市原隼人、りつ役の安達祐実。名バイプレーヤー枠では高橋克実、正名僕蔵、伊藤淳史、かたせ梨乃、山路和弘、片岡愛之助、西村まさ彦、安田顕、尾美としのり、眞島秀和、相島一之。イケメン・美女枠では、何といっても主演の横浜流星の存在が際立っている。

その他にも中村蒼、水沢林太郎、小芝風花、冨永愛、福原遥、橋本愛の出演が決定しており、それぞれの登場シーンでは大いにSNSを盛り上げてくれることだろう。

●見どころ(3)「幕府パート」

おそらく本作は、蔦重を中心とした江戸の市井パートと、田沼意次(意次失脚後は松平定信)を中心とした幕府パートの二本立てで物語が展開していくだろう。意次が幕府内でどのような立ち回りを見せるのか。そして、意次が失脚に至る政権交代劇がどのように描かれるのかは本作の大きな見どころだ。

また、意次の次に実権を握る松平定信が蔦重の事業に多大な影響を及ぼすことを考えると、蔦重と幕府による政策は切っても切れない関係にある。田沼意次といえば、ひたすら賄賂を受け取った悪徳政治家のイメージが付きまとうが、本作の放送を機に、彼の人気は爆上がりすると予想している。藤原道長は『光る君へ』が放送される以前では、傲慢な独裁主義者のイメージが強かったと思うが、今では「やさしげでいいやつ」といったイメージに変化しつつある。これと同じ現象が起こるのではないだろうか。そして松平定信は蛇蝎のごとく嫌われてしまいそうだ。