テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、2024年の『光る君へ』を含む、過去3年分のNHK大河ドラマ作品について視聴質を分析した。

毎年、様々なアプローチで視聴者に感動と興奮を与えてくれるNHK大河ドラマ。その歴史は1963年までさかのぼる。幕末の大老・井伊直弼(主演:二代目 尾上松緑)の生涯を描いた第1作『花の生涯』の放送開始から61年が経ち、これまで63もの作品が放送されてきた。

今回の記事では、そんな日本を代表するドラマシリーズである大河ドラマの、直近3作品である『鎌倉殿の13人』『どうする家康』『光る君へ』の関東地区地上波放送における注目度データをもとに、近年の大河ドラマの視聴傾向を探っていく。

  • 『鎌倉殿の13人』主演の小栗旬(左)と『光る君へ』主演の吉高由里子

    『鎌倉殿の13人』主演の小栗旬(左)と『光る君へ』主演の吉高由里子

『光る君へ』は女性視聴者から高い支持

2024年に大きな話題を集めた『光る君へ』は、女性視聴者の注目度が高い傾向にあったことが分かった。特に女性若年層の注目度に関しては47.1%と過去3年で最高であり、『鎌倉殿の13人』の39.7%と比較すると7.4ポイントものギャップがある。

その理由としては、

・大河ドラマの中でも恋愛要素が強めであったこと
・多数の若手人気俳優の起用

が考えられる。脚本は「ラブストーリーの名手」と評される大石静氏で、『功名が辻』『ふたりっ子』という長編作品でも脚本を務めている。主役の紫式部(まひろ:吉高由里子)について明らかでない部分が多いことを逆手にとって描かれた大胆な恋愛模様が、多くの女性視聴者に好評を博した。また、貴族中の貴族・藤原公任を演じる町田啓太を筆頭に、一条天皇役の塩野瑛久や、双寿丸を演じる伊藤健太郎など、多数のイケメンが登場して注目を集めた。

『光る君へ』は平均世帯視聴率こそ過去3年間の大河ドラマでは最低となっているが、NHKの発表では、「NHKプラス」における第45回までの平均視聴UB(ユニーク・ブラウザ)数は37.8万UBで、歴代大河ドラマで最高視聴数を記録している。この結果からも、『光る君へ』が、観たい時間に観るという視聴スタイルをもつ女性若年層からの支持を得ていることがうかがえる。

『どうする家康』新しい家康像が若年層の心をつかんだか

2023年の『どうする家康』は、『光る君へ』とは逆に男性若年層の注目度が過去3年で最高となった。これは徳川家康という属性を考えると非常に興味深い結果といえる。

徳川家康は狡猾で老練な戦国大名というパブリックイメージであり、その人生は長く過酷な忍耐を強いられてきた。現代の男性若年層から共感を得られる人物像とはかけ離れている。実際にこれまでに大河ドラマで家康を演じてきた俳優も、『功名が辻』の西田敏行さんや、『江~姫たちの戦国』の北大路欣也など芸能界でも大御所といわれる名優だった。

しかし、『どうする家康』では家康役にアイドル出身の嵐・松本潤をキャスティングし、従来の家康のパブリックイメージとは真逆の、「ツライことから逃げ、自分のしたいことだけしたい」という、現代の若者が共感しやすいキャラクター設定としたことが男性若年層の支持を得られた要因といえるのではないだろうか。

また、女性若年層の注目度も45.9%と高く、『光る君へ』の藤原のF4に近い立ち位置である、徳川四天王(本多忠勝役に山田裕貴、榊原康政役に杉野遥亮、井伊直政役に板垣李光人)をイケメン若手俳優で固めた効果が表れている(※酒井忠次役の大森南朋だけ少し属性が違うが)。

そして、『どうする家康』では、21世紀に入ってからの大河ドラマで主演を務めた俳優が3人出演していることも大きな特徴だ。2002年『利家とまつ~加賀百万石物語~』まつ役・松嶋菜々子(※前田利家役・唐沢寿明とダブル主演)、2012年『平清盛』平清盛役・松山ケンイチ、2014年『軍師官兵衛』黒田官兵衛役・岡田准一をそれぞれ重要な役で起用し、男性40~59歳の支持も集めることに成功している。

その他にも、武田信玄役を阿部寛、服部半蔵役を山田孝之、お市と茶々役の一人二役を北川景子と、主役級の俳優を多数そろえた豪華なキャスティングが、『どうする家康』の大きな魅力といえそうだ。

『鎌倉殿の13人』ユーモアあふれる脚本で様々な視聴層を魅了

最後に、2022年の『鎌倉殿の13人』だが、平均世帯視聴率は過去3年の作品の中でダントツの9.3%(REVISIO調べ)という数字を誇っている。また、個人全体の注目度は71.2%と最も高く、様々な層の視聴者を「くぎづけ」にしてきたことが分かる。

『鎌倉殿の13人』がこれほど支持された要因はやはり、歴史ドラマでありながらユーモアあふれる三谷幸喜氏の脚本にあったのではないだろうか。

三谷氏の前作である2016年『真田丸』も、大河ドラマ史に残る傑作だったため、三谷氏の脚本というだけで視聴を決めていたファンが大勢いたことは想像に難くない。鎌倉時代初期というのは相当に血なまぐさい権力闘争が日常的に繰り広げられる時代だが、全編を通してコミカルな味付けがされており、大河ドラマを欠かさず視聴する視聴者層を魅了しつつ、普段は時代劇を観ない視聴者層も楽しめるストーリー展開と演出は、三谷氏にしかできない秀逸なものだった。Twitter(現・X)では25話連続でトレンド世界1位に輝いており、SNSの普及も追い風となっていた。