さらにその世界観を作った中江功、澤田鎌作の演出も特筆すべきポイントの1つ。終始、実那子が男たちに襲われそうな不穏さを漂わせつつ、時に森やライティングなどのノスタルジックかつファンタジックなシーンを挟むなど、嫌悪感を抱かせないバランスの良さと映像美が光った。

クリスマスイブのクライマックス、アッと言わせたタイトルバックの伏線などを含め、名作がそろう90年代ドラマの中でも90年代演出が冴え渡った作品の1つと言っていいのではないか。昨今の作品が批判を恐れるようにハッピーエンドに偏りがちな中、謎と余韻を残し「どういう解釈をすればいいのか」と思わせるラストシーンも含め、一気見にふさわしい見応えがある。

2010年代あたりから低視聴率を避けるため、ミステリーは見続けてもらうリスクの高い長編が激減し、短編ばかりになってしまった。しかし、長編ミステリーの「1話完結型では得られない特大のカタルシスがある」という魅力は大きく、一気見することで「3か月かけて追う物語を1日で見られる」という贅沢さもある。また、17年の『リバース』(TBS)、20年の『テセウスの船』(TBS)を見ても、長編ミステリーと寒い時期が合うことも確かだ。

運命に翻ろうされる可憐なヒロインを演じた中山さんの相手役を担ったのは木村拓哉。男女それぞれのフジ月9最多主演記録を持つ2人であり、「最高峰の組み合わせが実現した」という意味でも希少価値が高い。木村は「何を演じてもキムタク」などと言われがちだが、当作では悪態をつきながらも愛情と使命感から優しさがにじみ出る男を好演。中山さんを立てるように一歩引いた立ち位置からくすんだ輝きを放つことで、他作とは一線を画す魅力を感じさせた。

最後にもう一つ触れておきたいのが、竹内まりやの主題歌「カムフラージュ」の歌詞。「遥か昔何処かで出会ってた そんな記憶何度も甦る」「瞳と瞳が合って指が触れ合うその時 すべての謎は解けるのよ」など、ここまで物語とリンクした歌詞は記憶にない。その主題歌における伏線と回収の爽快感を味わうためにも、年末年始に一気見してみてはいかがだろうか。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。