SNS時代の今、どれだけ質が良かろうが、視聴率が振るわなければ「所詮…」の烙印を次々と押される。また一時期、「日本のドラマは韓流より20年遅れている」という言葉が話題になるなど、地上波ドラマに対するSNS民の風当たりは強い。
「韓国の場合は国内だけで戦えないから世界に目を向けた。日本はずっと国内で消費できていたから国際的な面で後れを取った。そうした構造的な問題がそもそもある。ですが、例えば『エルピス』は日本国内の問題を扱ったからこそ、評価された経緯がある。ただただ国際的な意識を持てばいいというわけではない。キー局がマスに向けて大ヒットするような企画のドラマを作ってもいいいし、弊社のようなドラマがあってもいい。様々な形のドラマが乱立した方が豊かという考えもあるのではないかと思うのです」
実際、筆者も韓国のネット掲示板で、「韓国のドラマはほぼ同じパターン、展開のものが多いが、日本のドラマは驚くほど多様なジャンルの作品がある」との韓国人の書き込みを見たことがある。そう、面白ければ国際的でもドメスティック向けでも構わないのだ。
多様性もあった方がいい、乱立すればいい。Netflixでは『サンクチュアリ -聖域-』や『全裸監督』が世界的に話題となり、Disney+でも『SHOGUN 将軍』がエミー賞を総なめにした。これらはしっかりと日本の文化に根を生やして作られた作品であり、カンテレとしても「日本を描きながら世界にも評価される作品づくりは理想」と河西氏は語る。
“醸成された共犯関係”という地上波連ドラの強み
『モンスター』のNetflixでの実績を受け、「視聴率だけではなく、TVerでの再生数、Netflixでのランキングと評価基準が増えたことはありがたく、今回のランキング結果は現場のモチベーションにつながった」と河西氏。
「特に最終回あたりは、ヒロインの亮子(趣里)と父親役の古田新太さんとの親子、弁護士としての敵対関係が変化するなど、手前味噌ながらますます面白くなっていきます。また橋部敦子先生の脚本も、最新の時事ニュースを意識したセリフがあり、橋部先生が亮子に何を言わせるかというのも、見どころの一つになると思います」
配信ドラマは全話撮ってから配信されるが、地上波ドラマは“今”が切り取れるほか、3か月、時間をかけてゆっくりと作品と視聴者の関係を築いていける。一気見では味わえない、制作と消費者の“醸成された共犯関係”は地上波連続ドラマだからこそだ。
また、SixTONESではギラギラ・オラオラのジェシーが、本作では振り回される“受け芝居”が多いのもファンにはたまらない一面。「毎回、ジェシーさんの“え?”の言い方が違う。さらに、亮子に感化された杉浦(ジェシー)が何をするか、これはちょっと面白いですよ」
オワコン、つまらない、とさんざん酷評されながらも、良くも悪くも乱立、ときに国際的にも認められる日本のドラマ。カンテレのドラマ制作部が、その多様性の中で今後もどんなカラーを出してくるか。かつての<月9→SMAP×SMAP>黄金期のような月曜夜の盛り上がりを再度、見てみたい。
●河西秀幸
1980年生まれ。02年に関西テレビ放送入社。『ハングリー!』『GTO』『銭の戦争』『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』『嘘の戦争』『パーフェクトワールド』『罠の戦争』などでプロデューサー、『マウンテンドクター』『モンスター』などでチーフプロデューサーを務める。22年7月から東京制作部部次長(現職)。