カンテレ・フジテレビ系ドラマ『モンスター』(毎週月曜22:00~)が、Netflix 今日のシリーズTOP10(国内)で3日連続1位を獲得した(10月23日~25日)。同ランキングでカンテレ制作ドラマがトップになったのは、『エルピス-希望、あるいは災い-』『罠の戦争』に続いて3作品目で、3日連続は初めての快挙だ。

近年、カンテレ制作ドラマが次々とドラマ賞を受賞。その質の高さに業界内外で注目が集まっているが、『モンスター』でチーフプロデューサーを務めるドラマ班チーフで東京制作部部次長の河西秀幸氏は「うれしいが、やはり地上波で見られたい」と、気を引き締める。さらに、最終話が近づく『モンスター』では、最新の時事を意識したようなセリフもあり、「それが地上波の強さかもしれない」と持論を交えて語る――。

  • 現在月曜22時枠で放送されている『モンスター』(C)カンテレ

    現在月曜22時枠で放送されている『モンスター』(C)カンテレ

視聴率、クオリティー、クリエイターファースト

「最も面白い」「最も攻めている」という声が、特にメディア業界で多かった長澤まさみ主演『エルピス-希望、あるいは災い-』、その次のクールに放送された草なぎ剛主演の『罠の戦争』。『エルピス』ではテレビ業界のタブーに切り込み、『罠の戦争』では草なぎの起用という業界の忖度問題に踏み込んだと多くのマスコミ人が言う。

『エルピス』の佐野亜裕美プロデューサーがTBSから転職活動をしていた際、その台本を読んで「これは面白いから、やるべきだ」と背中を押したのが河西氏であり、『罠の戦争』のプロデューサーも河西氏だ。

「カンテレ制作の月10ドラマには3つの目標があって、1つ目が大前提の視聴率…ヒットを作ること。2つ目はNetflixなどの配信ドラマと比べても遜色ないクオリティーの作品作りをすること。3つ目は話題になること。今回はその2つ目がある程度形になった状況です。そのためにカンテレではプロデューサー、そしてクリエイターファーストの現場になるよう、誰もが心がけています」(河西氏、以下同)

22年12月の『女子SPA!』のインタビューで、佐野Pは「カンテレの制作現場はいい意味でユルさがあるというか、現場の自由にさせてくれる最後のユートピアだと思います」と語っていた。河西氏も「弊社はプロデューサー発信の“この企画をやりたい”という想いを、ちゃんと会社として実現させるために皆で動いていくというのが他社より強いのではないでしょうか」と内情を明かす。

  • 『罠の戦争』(C)カンテレ

“田舎侍の集合”…外部のクリエイティブを最大限に生かす

これには構造的な背景にあるようだ。まずカンテレは大阪が拠点の準キー局であり、アウェーである東京支社の規模が在京キー局より小さい。規模が大きければ、権利を持った人も多く、「もっとこうしたほうがいい」とキャスティングなどに口を出すことがどうしても起こってしまうが、カンテレの規模であれば少数精鋭でプロデューサーが本当にやりたいことを、皆で力を合わせて具現化していくことができる。

つまり、口を出す人がそれほどいないため、尖ったり攻めたりしている部分がガリガリと削られ、無難でのっぺりとした作品になることが少ない。さらに、報道局に「政治部」が存在しないため、東京支社内でその手の忖度がない。それゆえ、自由度が高く、攻めた骨太な印象がカンテレにはあるのだろう。

「実際、僕も経験したことですが、企画の段階で誰もが面白いという企画はあまり話題になりにくいという傾向があります。賛否両論で、それでもプロデューサーの想いが熱ければ、その具現化に向けて全員で動いていく。

 さらに、弊社のプロデューサーはどこかで大阪から上京してきた“田舎侍の集合”といった気持ちもある。ゆえに新たな才能を外から入れようと、是枝裕和監督にお声をかけたり、『エルピス』の佐野Pの熱量を取り入れたり、またバカリズムさん脚本のドラマを最初に作ったのも弊社だったり(『素敵な選TAXI』)。そして僕がプロデューサー陣に言っている言葉として、“カンテレで仕事をして良かった”と思われる現場づくりを、という方針もあり、外部のクリエイティブを最大限に引き出したいと考えています」

こうした姿勢が奏功したのであろう。24年1月期の『春になったら』が民間放送連盟賞 テレビドラマ部門最優秀賞、ATP賞テレビグランプリ ドラマ部門奨励賞、同年4月期『アンメット』が東京ドラマアウォード作品賞(連続ドラマ部門)優秀賞、「MIPCOM Buyers’Award」奨励賞、ギャラクシー賞上期奨励賞など、昨年の『エルピス』から受賞が続いている。

『モンスター』も前述の通りNetflixで快挙を成し遂げ、「見る目が肥えた方々の集まりの中で結果を出せました」と手応えを語るものの、「全体的に視聴率はもっと頑張らなければならない」と、“大きな課題”として自省している。