番組では3つの家族の旅に同行。その中で特に印象に残ったというのは、「末期がんを患い、余命いくばくもない父を生まれ故郷へ連れていってあげたい」という家族からの依頼だ。病院を離れれば、いつ容体が急変してもおかしくないという状況で、大阪から鹿児島までの長旅の計画に、主治医からも強く反対されていた。

「伊藤さんの思いも分かりますし、主治医の先生が医師としての任務を全うしたい思いも分かるんです」とそれぞれの立場の気持ちを痛感しながら、「最後に願いがかなえられるというイメージを持つだけで、希望になって、力が湧いてきて、生き方が変わってきそうな気もするんですよね」と期待を抱きながら声を吹き込んだ田中。

結果として、伊藤医師の奮闘もあってこの旅は実現することに。病で言葉を発せないが、故郷の海を見つめる表情を見て、「それまでの中で生命力をすごく感じた瞬間でした。ご本人もそうですし、ご家族の皆さんも、すごく幸せな思い出の時間になったと思うので、やっぱり行動してみないと分からないことなんだと感じました」と、胸にくるものがあったようだ。

  • 故郷の海を訪れた依頼者家族 (C)フジテレビ

「人生と旅は切り離せないもの」

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当するのは、これが初めて。「毎回素晴らしくて、笑ったり、泣いたり、時には“この人、大丈夫?”と心配してハラハラして見ることもあります(笑)」と番組の印象を語る。

そんな、いち視聴者としての見方に加え、「こういう事態に遭った人にはこういう表情があるんだ」と演技の参考にも。さらに、「スタッフさんが寄り添っている息遣いや空気感も伝わってくるので、その人の人生を少し体験できたような気がするんです。なので、見ていると自分の経験が増えたような気がします」といい、今回のドキュメンタリーでもそれを実感したそうだ。

伊藤医師の言葉で特に印象に残ったのは、「人生と旅は切り離せないもの」。これに、「衝撃を受けたんです。『ザ・ノンフィクション』のほかの回を見ても、旅をする方が多い印象がありますし、命に限りがあると分かった時こそ、人は旅をしたいんだと改めて分かったような気がします」と納得していた。

●田中麗奈
1980年生まれ、福岡県出身。98年公開の映画『がんばっていきまっしょい』で銀幕主演デビュー。その後も『はつ恋』(00年)、『東京マリーゴールド』(01年)、「幼な子われらに生まれ」(17年)、『福田村事件』(23年)などの映画、『猟奇的な彼女』(08年)、『平清盛』(12年)、『いちばんすきな花』(23年)、『ブギウギ』(24年)などのドラマに出演する。