できるだけネタバレを避けてざっくり書くとこのようなあらすじだが、特筆すべきはサスペンスとミステリーとしての構成の妙と耐久性。「名無しさん」の脅威をたたみかけてサスペンスを高めつつ、ミステリーを引っ張りながら感情移入をうながすなど、興味を引きつけたまま終盤を迎えた。
当作のような1話完結ではない長編サスペンス&ミステリーは中盤で間延びして興味を失わせてしまうケースも少なくないが、『ようこそ、わが家へ』は「毎週放送される連ドラにふさわしい構成の妙と耐久性があった」と言っていいのではないか。
その耐久性を高めたのは、「どこにでもいる家族の何げない言動が知らぬ間に恨みを買っていた」というリアルな不気味さ。まるで現代社会の生きづらさを描いたノンフィクションのような世界観が視聴者の没入感を高めていった。
そして、長編サスペンス&ミステリー最大の醍醐味である最終話は「さすが池井戸潤原作のドラマ」と言える仕上がり。特に有村、寺尾、相葉がたたみかける長ゼリフはこれまでのうっぷんをすべて晴らすような爽快感があった。なかでも特に印象的だったのは、相葉が「名無しさん」こと犯人に放ったセリフ。深刻化する昨今の誹謗中傷問題にも通じるものがあり、現在のほうが心に響くのかもしれない。
原作は池井戸潤の小説だが、これを大胆に脚色したのが黒岩勉。「サスペンス&ミステリーにホームドラマをかけ合わせた作品」「相葉雅紀と同じ嵐の二宮和也主演」という点で、当作は22年の日曜劇場『マイファミリー』(TBS)につながったのではないか。ちなみに黒岩は現在、超常現象を扱ったオリジナルの異色作『全領域異常解決室』(フジ)を手がけていて、こちらも右肩上がりで注目度を上げている。
『ようこそ、わが家へ』の最終話では『半沢直樹』を彷彿させる土下座絡みのシーンもあり、佐藤二朗のコメディパートなども含め、ところどころに制作サイドのサービス精神が感じられた。
TBSの“押し”とフジの“引き”
主演の相葉は過去に演じたどの人物よりも「本人そのままのハマリ役」という声があがるなど、優しいけど頼りない主人公を好演。助演では倉田家の寺尾、南、有村はもちろん、昼と夜で別の顔を持つ女性を演じた山口紗弥加、さらにネタバレになるため書かないが、ヒールを演じた2人の女優などの存在感も光っていた。
池井戸潤原作ドラマと言えば、TBS日曜劇場のけれんみたっぷりな勧善懲悪ドラマというイメージの人が多いのではないか。これは主に福澤克雄監督によるハイテンポかつ力感あふれる演出によるもので、「顔芸」などとも言われた“押し”の強い作風だった。
一方、フジの当作は淡々としたペースや力感のなさが不穏さを醸し出すなど真逆の世界観。これは『Dr.コトー診療所』『教場』シリーズなどを手がけた中江功監督らしい“引き”の作風と言っていいだろう。つまり、多くの人々がイメージする池井戸潤原作ドラマとは相当異なる世界観だけに、放送からまもなく10年になる今なお希少価値が高いのではないか。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。