• 坂口健太郎

――有村さんの演技に関して本作で改めて魅力を感じた部分はありましたか?

彼女は今回、お芝居的には新しい、今まであまりやってこなかった挑戦をされたと思います。この作品は、ドロッとさせることもできたと思うんです。もうちょっと湿度を感じるお芝居をして、好きになってはいけない人を好きになってしまった、心臓が動いてしまったという表現を粘着質にやろうと思ったら簡単にできる話でしたが、そこがメインではなく、愛情がどうしても行ってしまうという……僕だったら、雄介の心臓としてさえ子に行ってしまう、でももしかしたら成瀬は、自分も心が動く瞬間が絶対あったと思うし、さえ子も雄介の心臓が入っているから雄介をと思っているけど、どこかで成瀬という存在に気持ちが動いてしまうことがあったと思うんですね。それを軽やかに表現してくれたなと思います。駅でさえ子とミキが話しているシーンを見た時に、素晴らしいなと思いました。

――坂口さんも、成瀬の中に雄介というもう一つの心があるという、すごく難しい役だったと思いますが、演じる上でどんなことを意識されたのでしょうか。

最初にストーリーを読んだときに、難しいなと思いました。これを果たしてできるだろうかと。お芝居していても、雄介の心臓が入って、ちょっとずつ雄介のパーセンテージが大きくなってくるけど、時々成瀬に戻ったりもするし、「今、僕の中には何%雄介があったほうがいいですか?」と監督や架純ちゃんに聞いたり。でも、成瀬の中の雄介が何%なのかというのは感覚でしかなく、説明しようがないから、僕も果たして何が正解だったのか、正直まだわかってないところもあります。でも、めちゃくちゃ悩んで、いろんな人に聞きながら、いろんなパターンを撮って、あとは監督に一番いいものを使ってくださいという感じだったので、きっとそれが正解だったと思いたいです。

――考えられるパターンをすべて試したからこそ、自分の中で納得できたと?

自分から「違うパターンも撮っていいですか?」と提案することはあまりないのですが、今回はいろいろ正解があって、その正解の質が変わってくる気がして、いい部分を使ってもらおうという感覚でやっていました。演じているときは、「今どれくらいなんだろう」とわけがわからなくなる時がありましたが、僕は絶対ミキのことは忘れてはいけないと思っていました。雄介の心臓が動いてしまっているけど、そこに成瀬がいなくなってしまうとよくないと思っていたので、雄介100%になっても、どこか自分の中の成瀬は残して演じました。

■坂口健太郎
1991年7月11日生まれ、東京都出身。2014年に映画『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』で俳優デビュー。映画『64-ロクヨン』(16)で第40回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『シグナル長期未解決事件捜査班」(18)で連ドラ初主演を果たす。近年の主な出演作は、ドラマ『鎌倉殿の13人』『競争の番人』(22)、『Dr.チョコレート』『CODE-願いの代償-』(23)、映画『余命10年』『ヘルドッグス』(22)、『サイド バイ サイド 隣にいる人』(23)、Netflix『パレード』(24)、Coupang Play『愛のあとにくるもの』(24)など。

スタイリスト:壽村 太一(COZEN inc) ヘアメイク:廣瀬瑠美