皎児さんは酒浸りで変わり者の性格から、幸せな家庭を築くにはほど遠く、帰国後に離婚。その存在に悩まされ続けた家族は心を病んだ。陽介ギフレさんはそんな父の絵について、「自分の家庭がめちゃくちゃになった象徴みたいなもの」「どんだけしんどい思いをしてきたか」と苦しい思いを打ち明ける一方で、「簡単に断ち切れない」「通過儀礼として“さよなら”を言いたい」と、その絵を何とか守ろうと奔走する。
この一見相反する感情を理解できなかった宗田Dが「そんなひどいことをされてきたお父さんにある感情は憎しみですよね?」と聞いたところ、返ってきた答えは「たしかに親父のせいで家族はひどい目にあったけど、憎んではいない。親父のことは憧れもあるけど、人と人として付き合うのが難しい人だっただけ。だから“愛すべきクソ親父”なんだ」というもの。それを聞いても共感することはできなかったが、陽介ギフレさんの旅を追っていき、父親の人柄が徐々に分かっていく中で、陽介ギフレさんの複雑な感情が解かれていくのが手に取るように分かった。
「ギフレさん自身が、お父さんの知人などに会うと“親父ってこういうところがあって、カッコよかったんですよ”って自慢話したり、“こういうところに憧れてたんだな”と言うことがあったんです」という姿を見て、まるで生前にできなかった父親との距離を埋める作業をしているように感じた宗田D。
今回の取材の最後に、陽介ギフレさんに父親への感情の変化を聞くと、「元々は嫌悪感も愛情も憧れも、いろんなものがゴチャっとなった複雑な感情を抱えていたのが、この半年の旅を終えて“好き”という感情だけが残った」と答えたのだそう。
半年前に父親が亡くなった際は、“知らない父が死んだ”感覚で「寂しい」という感情が湧かなかったが、そこから足跡をたどる旅を通して“よく知る父の死”に変わり、今は「すごく寂しい」という感情を抱いているそうだ。改めて、“親子”という関係が決して単純なものではないことが伝わってくる。
相手の懐に躊躇なく入っていくコミュニケーション術
今回の取材が成立したのは、初対面の人に対しても、相手の懐に躊躇なく入っていく陽介ギフレさんのキャラクターも大きい。「こっちからすると“大丈夫か!?”と心配になるのですが、あれが彼なりの、自分の心をオープンにするコミュニケーションの仕方なんだと言っているんです」という。
特に、最後の最後まで父の面倒を見てくれた居酒屋の主人・譲二さんとは、一晩酒を酌み交わしただけで驚異的な意気投合っぷり。
「事前にお父さんの日記を読んでいたので、熱い感じで対応してくれるかと思ったら、最初にお会いした時は結構他人行儀な感じで、ギフレさんは“ちょっと構えてたよね”とショックを受けていたんです。そこで、一緒にお酒を飲んだらいろんな鎧が取れて、譲二さんもお父さんと付き合っていた頃の素の感じになっているようでした。あの時の2人はすごくうれしそうにしていましたね。最後は普通に歩けないくらいベロベロになってましたから(笑)」