今回の取材対象は政治家の中でも、選挙区や党内で力を持ったトップを目指す人たちだ。そんな人物に接し、大島氏は共通して、「まず体力がすごいと思いましたが、それ以上に精神力の強さを感じました」という。
「又聞きですが、小泉純一郎さんが総理大臣になって“なんでこんなに批判されるんだろう”と言っていたように、今回の人たちも組織で上に行けば行くほど強く支持してくれる人もいれば、批判する人も増えていく。だから、皆さん面の皮が厚いなと思いました(笑)。大抵の政治家はそうじゃないとやっていけないと思うのですが、総理を目指す人たちには、よりそういう部分があるのではないかと感じますね」
これを受け、井上氏は「小泉さんも言われていましたが、政治家には確かに“鈍感力”が求められると思います。あらゆる批判を受け止めて全部消化しようとすると、国家運営はできないので、小泉さんは結構受け流しながら、笑い飛ばしながら政治を動かしていくという技術に長けた人だったと思います」と解説。一方で、総裁選を勝ち抜き総理になった石破茂氏については、「比較的、真正面に受け止める方ですし、今回のドキュメントでもとても真面目な方であるというのが見えると思います」と予告する。
その性格を象徴するシーンが、総理になってすぐに衆議院を解散して迎えた総選挙の投開票当日の電話インタビューだ。与党苦戦の情勢が伝えられていた中で、苦悩の胸中を表す言葉を漏らしている。
常に自分のペースを作って冷静に話す石破首相から発せられた意外な本音に、大島氏は「面の皮が厚い人でも、やはり総理というポジションはまた全然違うプレッシャーが見えた場面でした。あのシーンがあってすごく良かったと思います」といい、長く永田町を取材してきた井上氏も「あんな本音はなかなか聞けないですし、放送されることが分かっている状況でトップが話していることに、なおさら驚きました」と衝撃を語る。
大島氏は、この電話インタビューが実現できた理由を「本当に日テレの担当記者の方のおかげです」と感謝するが、「今回の取材で話を聞ける機会が一番多かったのは、偶然石破さんだったんです」と、短い期間ながら関係性を築けたことも大きい。井上氏は「あのタイミングで取材を受けてくれたのは、取材者として大島監督が本気で相対してきたのに対して、石破さんが本気で向き合うという気持ちがあったのだと思います」と推察した。
殺伐としたSNSの政治論争に対してテレビが果たす役割
近年は多くの政治家が積極的にSNSを利用するようになったが、一方的に発信される言葉に、支持者やアンチが罵声や中傷を繰り返す殺伐としたプラットフォームになっているのが現状だ。翻って、今回の番組で映し出される政治家たちと大島氏の“会話”は、話し方や表情も含めて血の通ったコミュニケーションが成り立っており、テレビというメディアならではの大きな役割を果たしている。
大島氏は「変な言い方ですが、政治って面白いと思うんです。もちろん政策も大事ですが、人としての政治家という部分も一つの見方だと思うので、そこを楽しんで見ていただきたいです」といい、井上氏も「普段のニュースでは見せない表情や言葉から、政治家って面白い人たちなんだと思ってもらいたいです。いろんな方向性はありますが、この国のトップになっていい国を作りたいという思いは確かにあって、そこを大島監督が見事に引き出して描いてくれています」と見どころを語った。