刑事部長、有名俳優、建設会社社長、料理研究家、世界的投資家ら、そうそうたる肩書きに登り詰めた人物が真海の復讐を受けていくのだが、物語はそれだけに留まらない。

禁断の不倫、マフィアの暗躍、両親殺害の過去、偽りの死産、生き埋めや毒殺など、怒涛の展開が連鎖していく。さらに、真海の協力者たちにも悲しい過去があり、感情移入を誘われるなど、最後まで飽きさせない生死と愛憎をめぐるジェットコースタードラマだった。

“ジェットコースタードラマ”と言えば90年代序盤に流行したジャンルで、上下動の激しい展開がノンストップで続き、目まぐるしく変わる人間模様で視聴者を引きつけていたが、最も有名なのは91年放送の『もう誰も愛さない』(フジ)だろう。同作が平成初期のジェットコースタードラマなら、『モンテ・クリスト伯』は平成最後のジェットコースタードラマと言っていいかもしれない。

とりわけ異例の1時間前倒し、かつ2時間スペシャルとして放送された最終回は圧巻だった。真海は復讐の総仕上げとして当事者を集め、「最後の晩餐会」を開くのだが、15年の年月をめぐるその内容は何とも哀しすぎるものだった。

ここで詳細は書かないが、プロポーズと「バンザイ」のむなしさ、そして復讐劇の締めくくり方。視聴者の批判を恐れてハッピーエンドを選ぶ作品ばかりの中、余白や余韻を残して解釈を投げかけるようなラストは圧巻だった。原作小説と同じ「待て、しかして希望せよ」というメッセージも含め、近年のドラマで最も印象的な最終回と言っていいかもしれない。

実際、多くの視聴者が解釈を共有するようにコメントを書き込むなど、ネット上には好意的な声が続出。翌週になっても「モンクリロス」「フジを見直した」などの称賛がやまなかった。

放送当時は『おっさんずラブ』(テレビ朝日)が旋風を巻き起こしていたが、ネット上で「もう1つの隠れた名作」として並び称えられていたのが当作。両作とも放送終了後に視聴者自身が作った“架空の続編”をX(当時・Twitter)に書き込まれるほどだった。

一話完結では得られないカタルシス

圧倒的なイケメンと存在感が称えられる一方、「何を演じてもディーン様」と言われがちで、演技力は必ずしも評価されていなかったディーン・フジオカは当作で評価が一変。純粋な漁船員から、凄惨な拷問に苦しむ姿、スマートな投資家に変貌しての帰還、復讐を執行する冷酷な男という落差を演じ切り、最終回は少しのセリフと表情で繊細な感情を表現して感動を誘った。

西谷弘、野田悠介、永山耕三の演出陣が手がける洗練された映像も、黒岩勉らしい人間の業をえぐるような脚本も回を追うごとに冴え渡り、視聴者の感情移入を加速。今秋のゴールデン・プライム帯は16作中9作が刑事・医療・法律がテーマでその大半が一話完結の構成だが、終盤にはそれらでは得られづらい特大のカタルシスが得られる作品となった。

2013年の『半沢直樹』(TBS)の大ヒット以降、各局が復讐劇の連ドラを量産。2018年の放送当時もゴールデン・プライム帯で3期連続だったため、「またか」という感はあったが、そんなマンネリを忘れさせる快作であり、それは6年過ぎた今でも色あせていない。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。