櫻井主演の『家族ゲーム』が放送された2013年の春クールには、吉本以外にもミステリアスな主人公がそろっていた。

『雲の階段』(日テレ)は、離島から上京して玉の輿に乗った無免許医・相川三郎(長谷川博己)。『潜入探偵トカゲ』(TBS)は、心を閉ざした元刑事の探偵・綾部透(松田翔太)。『TAKE FIVE~俺たちは愛を盗めるか~』(TBS)は、心理学の大学教授であり窃盗団リーダーの帆村正義(唐沢寿明)。『お天気お姉さん』(テレ朝)は、無愛想な黒装束の気象予報士・安部晴子(武井咲)。『35歳の高校生』(日テレ)は、謎多き35歳の編入生・馬場亜矢子(米倉涼子)。

主要作だけでこれだけのミステリアスな主人公が勢ぞろい。当時は2011年末に放送され、記録的ヒット作となった『家政婦のミタ』(日テレ)の主人公・三田灯(松嶋菜々子)を踏襲するようなキャラクター設定が増えていた。

多くの作品が「暗い過去を持ち、謎が多い設定や型破りな言動で視聴者を引きつけ、高視聴率を狙う」という戦略を採用。その点、『家族ゲーム』は名作のリメイクだったが、28年の時を経ていたため、過去作を見たことがない人も多く、櫻井が演じる意外性もあって十分にミステリアスな主人公として成立していた。

また、朝ドラ、日曜劇場で連続主演を務めるなど今をときめく神木隆之介は、当作における“セカンド主人公”と言っていいだろう。演じた慎一は「進学校に通う家族思いの優等生」と思われているが、実はストレスから万引きや迷惑行為を行うなどの二面性を持ち、吉本から沼田家で最も危うい人物とみなされていた。

それまでの神木は愛くるしい見た目から素直で優しい人物を演じるケースが多かったが、『家族ゲーム』以降は演じる役柄が一変。『学校のカイダン』(日テレ)、『サムライせんせい』(テレ朝)、『刑事ゆがみ』(フジ)、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(NHK総合)など各局でクセの強い人物を演じるケースが増え、人気子役から大人俳優への成長を人々に感じさせていった。

その他でも、民放連ドラへの出演が15年ぶりで現在に至る復活のきっかけとなった鈴木保奈美。同一人物として「一茂と同じ会社の社員」「吉本の被害者」「吉本の過去を知る協力者」の3役を演じ分けた忽那汐里の存在感が際立っていた。

フジ水曜22時枠の奮闘と成果

櫻井翔主演の『家族ゲーム』を語る上で忘れてはいけないのが、フジ水曜22時台のドラマ枠について。

この枠は90年代に何度か連ドラが放送されたものの、99年で終了。14年後の13年に復活するのだが、その第1弾として名作『家族ゲーム』のリメイクが選ばれた。

しかし、これは単なるドラマ枠の新設ではなく、日曜21時枠がTBSに負けて撤退することを受けての実質的な移動。ところが移動先の水曜22時枠には80年代から放送を続ける日テレの水曜ドラマがあり、この強敵に勝たなければ視聴率は得られない。

だからこそ『家族ゲーム』はキャスト・スタッフともに気合いを入れて制作され、続く第2弾の『ショムニ2013』も名作リメイク。さらに第3弾は主演・堺雅人×脚本・古沢良太の『リーガルハイ』と力作でたたみかけた。

ちなみにその後、フジ水曜22時枠は日テレに敗れて16年で撤退したが、22年に再び復活。今年3月で今度は日テレが撤退して、水曜22時台はフジが独占状態となっている。これは13年の『家族ゲーム』から続いた制作陣の奮闘がもたらした成果と言っていいのかもしれない。

今になって振り返ると、櫻井が裸でサウナに入るシーンを毎回挿入したほか、神木と人気絶頂期のAKB48(当時)・北原里英のキスシーンを第1話に組み込むなど、細部のネット対策まで徹底されていた。これはその賛否こそあれど、制作サイドが本気で結果を取りに行っていたことの証しと言っていいのではないか。

とかく「リメイクはオリジナルや前作に勝てない」と言われがちだが、櫻井主演の『家族ゲーム』に関しては、そんな絶対に負けられない戦いだったからこそ、11年後の今なお輝きを放つ作品となっている。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。