12月6日から来年1月10日まで上演される舞台『ヴェニスの商人』で稀代の悪役・シャイロックを演じるが、シェイクスピア作品初挑戦となる草なぎは、新たな挑戦に胸を膨らませている。

「初めてのことは楽しい要素がたくさん感じられるので。最近は再演も多く、それも楽しいですが、また新作に挑めるなという思いです。YouTubeで『ヴェニスの商人』をいろいろ検索して、なんとなくこんな作品なのかなと。シェイクスピアさんの400年ぐらい前の脚本が今現在にも語り継がれている魅力を感じているので、今このときにやるというのが、僕にとっても皆さんにとっても意味深いものになればなと思って、自分の中でいろいろ考えて何かを構築している段階です」

  • 草なぎ剛

そして、役作りで内面を深めるというより、観客にどう受け取ってもらえるかということを最も意識して舞台に立つようにしていると明かす。

「台本を深く読み込んだり、役と自分の共通点を探したりというよりも、大きい声を出したりして作品の世界観に誘い、いかにお客さんに楽しんでもらうかが大事だと思っています。あまり難しく考えず適当にハッタリで(笑)。そして自分がいかに役になりきるか、そういうところを楽しんで、お客さんを作品の世界に引きずり込めたらと思います」

観客の心をつかむためには「必死さ」も大事だと語る。

「自分が必死になっていたらいいんです。お客さんはうまくいっているのはつまらないみたいで、ちょっと失敗するほうがみんな注目してくれるんです(笑)。間違ったりガタガタしているほうが、身を乗り出して見てくれるような気がしていて。下手にやるということではないですが、必死に食らいついてやっているところが見たいんだろうなと。今回、自分のセリフがすごく多くて、絶対に必死になるし、あたふたするので、どう考えても面白いと思います(笑)」

頭で考えて役を理解して演じるのではなく、現場での感覚を何よりも大切にしている草なぎ。以前インタビューした際に「こういう風にやらないとって決めて演じるとつまらなくなるので、何も考えないようにしています」などと話していたが、舞台は稽古で何度も同じシーンを繰り返して仕上げていくもので、普段のように鮮度を大切にする役作りとは異なってくる。

草なぎは「飽きますよね(笑)」と率直な思いを吐露しつつ、「自分と向き合う時間になるところが楽しくて、演じ方もいろいろあって、演出の仕方もいろいろあって、そこに協調性を持って真面目にやるという基本的なところが人として大事だなと。僕はいつも台本を自分のところしか読まないですけど、『剛、台本をきちんと読む大切さがあるだろう?』って舞台の神様に叱っていただいているような気がしています(笑)」と、自分を正す場になっていると改めて語る。

また、舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』(20、21~22)などでタッグを組んだ白井晃氏の演出を振り返り、「何回も何回も同じところをやって、本番までに喉が潰れちゃうんじゃないかなって思うんですけど、そこも自分との向き合いなんですよね。そういうことを乗り越えていくと新しい世界が見えて楽しくなってくる。本番も毎日同じことをやるんですけど、同じものにはならなくて。いつも自分を正してくれるものになっています」と話した。

  • 草なぎ剛

舞台『シラの恋文』(23~24)はセリフ量が少なかったのに対して、今回はセリフ量が多く、描く世界観も全く異なる。

「『シラの恋文』はほわっとした作品でセリフ量が少なかったんですけど、今回はそれとは真逆で、めちゃくちゃ長セリフがあり、体力的にもすごくエネルギーを使うので、僕自身もめちゃめちゃ挑戦だと思っています」

そして、「声が枯れることもあると思いますが、それはそれでドキュメンタリーというか、舞台を見に来る方は声が枯れてくるほど楽しいというのがあると思います。毎日見に来てくれる方もいて、エゴサーチをするとそういった変化や必死になっている姿を楽しんでくれていて。今回もボロボロになると思うので、そこで新しい自分に出会いたいなと思っています」