誰に対しても優しく接する辻氏だが、79年前に経験した甲府空襲、そして戦争の話になるとその様子が変わるという。
「語気が強くなって、迫力が違うという表現が合っていると思います。そこから、反戦への思いの強さを改めて感じました。79年前に経験したことを軸に人生を歩んでこられたことが伝わってきて、ものすごい衝撃で強烈に覚えている出来事なんだと感じました」
その“迫力”を特に感じるのは、当時の大人たちが口にしていた「戦争だからしょうがない」という言葉への怒りだ。
「戦争のお話をされるたびに、必ずこの言葉が出てくるので、本当に許せなかったんだと思います。これまでも甲府空襲の取材をしてきましたが、当時は若い男性が徴兵などでほとんどおらず、小さな女の子だった方の“とにかく怖かった”という証言をよく聞いていたんです。なので、青年男性の目線での“戦争だからしょうがない”という言葉への怒りは、強く印象に残りました」
世界を見渡すと、ウクライナでの戦争に終わりが見えないどころか、ガザやレバノンなどでも紛争が相次いでいる。そんな中で、この番組を放送する意義は何か。
「やっぱり“戦争だからしょうがない”がキーワードだと思います。辻さんに、“ウクライナ戦争についてどう思いますか?”と聞いたら、“しょうがないとかじゃないから”と強い言葉で否定されたんです。ロシアから一方的に攻められて、守るために戦うのは仕方ないと思っていた部分がありましたが、そこで諦めてはいけないんだとハッとさせられました」
ナレーションは柏木由紀「答え合わせになったよう」
戦争を扱うドキュメンタリーは、どうしても重い内容になりがちだ。ただ今回の番組は、ハローキティというキャラクターによって入り口をポップにすることで、辻氏が目指す“若い世代に伝えたい”という思いを共有している。
そこで、ナレーションとして白羽の矢が立ったのは、柏木由紀。収録を終えて、「小さいころからサンリオのファンで、いちご新聞も毎月買って読んでいました。いちご新聞やキティちゃんに込められた思いを初めて知り、改めてその魅力に気づきました。だからサンリオが好きになった、その答え合わせになったようでした」と感想を語っていた。
そんな彼女が吹き込んだ声を聞いて、渡辺Dは「優しい声が辻さんの雰囲気にも合っていました。また、柏木さん自身のサンリオへの思いも加わったことで、辻さんのメッセージをより強く、多くの人へ伝わるようになったと思います」と手応えを感じている。
今回の取材中に、自身の5歳の娘と3歳の息子に、サンリオショップで購入した商品をプレゼントしたという渡辺Dは「物に頼って子どもに喜んでもらおうというのは、ちょっとカッコ悪いなと思っていたんですが、今回の取材を通して、それで何もやらないことのほうがよっぽどつまらないと気付かされました」と、コミュニケーションツールとしての有効性を身を持って実感。
さらに、「今回の作品は、自分の子どもたちが10年経った頃に見せようと考え、主にそうした若い人たちに向けて作りました。戦争反対のために個人でできることは限られるかもしれないけど、友達と仲良くすることから様々な人と分かり合えることができる――そんなことを感じてもらえたら」と願っている。