第4局:藤井叡王、負ければ失冠の一局をしのぐ 決着は最終局へ

  • 第9期叡王戦五番勝負第4局、132手で藤井叡王が勝利した(提供:日本将棋連盟)

もはや後がなくなった藤井叡王。角換わり相腰掛け銀の定跡形から伊藤七段が穴熊に囲ったところ、藤井叡王は果敢に仕掛けていきます。伊藤七段も辛抱強くチャンスを待ちますが、手順に自陣に引き付けた馬を起点に伊藤七段の守り駒を削り切り、藤井叡王が勝利を収めました。これで、決着は最終局へ持ち越しとなりました。

(以下抜粋)

窮屈な角

  • △9五歩(第9図)

ここが本局のポイントとなる局面だった。

伊藤の▲9五同歩には、控室でも意外そうな声が上がった。やや先手が損と見られていたからだ。

後手の持ち駒に2歩あるので、歩のタタキで香を9六に吊り上げることができる。そこで△8六歩▲同歩△同飛と走って、香取りが受けづらい。2筋が素通しなので、▲2一飛成と成り込むことはできるが、その攻めよりも△9六飛と王手で香を取られるほうが厳しい。後手陣は△3一金と竜を弾けば1手で安定するが、先手玉の周りには駒が少なく、生きた心地がしない。

そこで伊藤は△8六同飛に▲8七角と自陣に角を手放した。遠く3二の金をにらんでいて、▲7五歩~▲5五銀左のような進行になれば働く可能性があるが、この時点では受け一方でつらい。伊藤も「(この展開は)本意ではなかった。指してみるとかなり角が負担になる展開だった」と局後に話している。

まだ難しい

△8一飛▲8六歩に△6四角は「形で打ってしまいました」と藤井が語った手だが、先手の8七角と比べていかにも好位置で、この働きの差だけ後手がリードを奪った。▲6五歩と追いにいくと△8六角が5九の金に当たるのも先手としては悔しい。8七の角を活用したい伊藤は▲7五歩と突いたが、△6五歩とがっちり押さえる手が利いた。

△6五歩に伊藤は▲7七銀と辛抱した。▲7七銀は伊藤の粘り強さを示した手で、こうしておけばまだ難しい。藤井も局後、ポイントの局面を尋ねられると、この局面を真っ先に挙げて「手の組み合わせがいろいろあると思った」と述べた。

馬が手厚い

少し進んで、▲9四歩(第10図)は伊藤の待望の反撃。

  • 第10図

△8五歩には▲7六角と先受けする。目標にしたかった先手の角が安定してしまったのが藤井としては不満なところだ。

とはいえ形勢はまだ藤井がいい。△3五歩と桂頭に手をつけて戦線を拡大する。▲9三歩成、▲8二歩と自陣に侵入してきた攻め駒の圧力を△3一飛とかわして、△3七歩成から△5七角成と馬を作ることに成功した。

その馬を△7五馬(第11図)と引きつけたところで、両者とも「馬が手厚い(藤井)」「思った以上に痛い(伊藤)」と、差が開いたという認識で一致した。

  • 第11図

以下、この馬を中心に伊藤の守り駒を削り切り、△9六歩(投了4図)までで伊藤が投了。

  • 投了4図

▲9六同銀△9七馬が銀取りと△7七角からの詰めろになっており、攻防ともに見込みがない。負ければ失冠、しかも後手番の一局を藤井はしのいだ。

(将棋世界2024年8月号より 第9期叡王戦五番勝負第4局 ポスト八冠時代の光景/【記】會場健大)

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