主要22作がそろった2024年夏ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。
別記事(「2024年夏ドラマ」オススメ5作は? パリ五輪開催中の難しいクールで意欲作ズラリ)において2024年夏ドラマの主な傾向を【[1]「パリ五輪開催」の難しさがハッキリ】【[2]「夏なのに」命をめぐる重い物語が続出】の2つと解説。
おすすめドラマとして、『海のはじまり』(フジ 月曜21時)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(読テレ・日テレ 木曜23時59分)、『笑うマトリョーシカ』(TBS 金曜22時)、『あの子の子ども』(カンテレ・フジ 火曜23時)、『降り積もれ孤独な死よ』(読テレ・日テレ 日曜22時30分)の5作を選んだ。
本記事では、それらを含む全作品のショートレビューと、目安の採点(3点満点)を挙げていく。
『海のはじまり』 月曜21時~ フジ
出演者:目黒蓮、有村架純、泉谷星奈ほか
寸評:月9は今年3作連続で「重い」路線を継続か……と思わせておきつつ、回を追うごとに静かな感動が押し寄せる作品になっている。脚本の生方美久は助産師や看護師をしていただけに、得意の心理描写に加えて状況描写も丁寧で、『silent』『いちばんすきな花』の過去2作より臨場感がアップ。ハートフルな家族のシーンと心に刺さるようなセリフを織り交ぜることで引きつけている。村瀬健プロデューサーと風間監督の仕事も相変わらずスキがなく、人気俳優を支える大竹しのぶ、池松壮亮、古川琴音ら助演キャストの芝居も盤石。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『マウンテンドクター』 月曜22時~ カンテレ・フジ
出演者:杉野遥亮、岡崎紗絵、大森南朋ほか
寸評:山の景色が映える夏らしい作品だが、医療モノである必然性は薄く、五輪などの影響を踏まえた消極的な制作姿勢がにじむ。ネット上に「徐々に山のロケ映像が減っている」という指摘が出る難しさもあり、夏山の診療所が舞台の向井理主演『サマーレスキュー』(TBS)も記憶に新しい。カンテレの同枠は2作連続医療モノだけに回避できたのでは。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『夫の家庭を壊すまで』 月曜23時6分~ テレ東
出演者:松本まりか、竹財輝之助、野波麻帆ほか
寸評:松本まりか劇場のド真ん中で「どんな物語でどんなキャラなのか分かっていてもつい見てしまう」「『もっとやれ』と思う」というニーズの健在を感じさせられる。ただ見慣れたからか「意外とあっさりして見やすい」というニュアンスの声も多い。繊細に演じていた前期の『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日)より反響が大きいのは松本にとって気の毒か。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『南くんが恋人!?』 火曜21時~ テレ朝
出演者:飯沼愛、八木勇征、木村佳乃ほか
寸評:定期的にリメイクされる若手俳優の登竜門だが、今回は初の男女逆転版。女性の推し活が全盛の令和らしいコンセプトであり、小さくなった国宝級イケメン・八木がファンたちを喜ばせている。飯沼と八木のフレッシュな演技は最大の見どころだが、もう1つのポイントは94年に高橋由美子版の脚本を手がけた岡田惠和の再登板。小さくなったことで浮き彫りになる人間の本質をどこまで掘り下げられるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『西園寺さんは家事をしない』 火曜22時~ TBS
出演者:松本若菜、松村北斗、津田健次郎ほか
寸評:重い作品の多い今夏最大の癒しドラマで希少かつ貴重。若年層狙いのラブコメが多い『火曜ドラマ』で松本若菜のGP帯初主演は意外性十分であり、ポジティブな年上キャリアウーマンを魅力的に演じている。『私の家政夫ナギサさん』(TBS)のときよりも“家事しない女性”を「普通の人」として描いているなど、世間に寄り添うような世界観も人気のポイント。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『あの子の子ども』 火曜23時~ カンテレ・フジ
出演者:桜田ひより、細田佳央太、茅島みずきほか
寸評:これまで79年の『3年B組金八先生』(TBS)、06年の『14歳の母』(日テレ)、さらに昨年の『18/40~ふたりなら夢も恋も』(TBS)でも描かれた未成年の妊娠を描いた作品で、学生が長期休みの夏に放送する意義を感じさせられる。特筆すべきは、性への好奇心から、避妊具の破損、アフターピル、生理不順、妊娠検査薬、産婦人科医の対応までが具体的かつ丁寧に描かれ、令和のリアリティーを詰め込んだこと。学生の妊娠を安易に美化せず「出産を善、中絶を悪」と単純化しないところも好感が持てる。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『新宿野戦病院』 水曜22時~ フジ
出演者:小池栄子、仲野太賀、橋本愛ほか
寸評:「さすが宮藤官九郎」と思わせる脚本は巧みで『ブラックペアン』(TBS)と真逆の雑な手術など笑いを誘うシーンも満載。ただ濃いキャラクターと小ネタ満載の脚本に合わせたのか、ドキュメントタッチの映像や超高速カット割りなど演出の幅が広すぎて、「どう見たらいいかわからない」という声が散見される。各エピソードの完成度は高い一方、毎週見たくなるような連続性のあるテーマがまだ見当たらず、TBSで磯山晶プロデューサーが手がけるクドカン作品との比較でやや苦しいか。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】