◆消費電力測定(グラフ136~144)
最後にお馴染み消費電力測定。今回はSandraのDhrystone/Whetstone(グラフ136)、CineBench R24のAll Cores(グラフ137)とOne Core(グラフ138)、TMPGEncでの4 Streamエンコード(グラフ139)、GeekBench MLの実行(グラフ140)、3DMark SteelNomad Light(グラフ141)とMetro Exodusの2K(グラフ142)という7つのデータを取ってみた。この中で言えば、まずMetro Exodusは先にベンチマークの所で説明したように失敗で、実際性能が低い分消費電力も下がっているが、これは比較基準にはならないのでCore i5-14600Kのデータは無視してほしい。また3DMarkがSteelNomadではなくSteelNomad Lightを使ったのは、SteelNomadだとGPUの負荷が高すぎて、CPUによる差が殆ど無かったので、こちらにしてみた。GeeekBenchは試しにやってみたが、あまり良いテストでは無かったようだ(それでも傾向はつかめたが)。この7つのテストにおける消費電力の平均値をグラフ143に、それと待機時との消費電力差をグラフ144にまとめてみた。
まず判るのがRyzen 9000シリーズの消費電力の低さだ。Ryzen 5 9600XはRyzen 5 7600Xに比べて50W近く消費電力が低い。それでいて性能に大差が無いというのはかなり驚きである。Ryzen 7 9700XもRyzen 7 7800X3Dとほぼ同程度に収まっている。今回比較をRyzen 7 7700XとRyzen 7 7800X3Dのどちらにするか悩んだ末、特にゲームを遊ぶ人に好評という事もあるのでRyzen 7 7800X3Dを選んだのだが、多分比較としては正解であったと思う。
実際ここまで見てきたように、性能という意味ではRyzen 7 7600XとRyzen 7 9600Xでは大きく差が無い(むしろ向上している場合もいくつかある)のに消費電力が50W下がったというのは、非常に大きなポイントである。またRyzen 7 7800X3Dは3D V-Cacheの制約もあってあまり温度を上げられないためにTDPが低めになっている訳だが、それとRyzen 7 9700Xは同等レベル(殆どのケースではむしろ消費電力が下がっている)というのは中々画期的だと思う。
先にもちょっと書いたが、恐らくAMDとしてはRyzen 5/7のSKUは絶対性能よりも性能/消費電力比の改善に注力する事を方向性として選んだのだろう。商品構成としてこの選択は絶対に正しいと思う。
実際性能/消費電力比をちょっと試算してみたのが表3~5であるが、とにかくRyzen 7 9700Xの性能が他と比べて圧倒的に良いのが良く判る。Ryzen 5 9600Xも悪くはないのだが、Ryzen 7 9700Xに比べるとやや劣るのは、コア数が6と少ない分動作周波数をやや引き上げているためだろうか? それでもRyzen 5 7600Xよりは随分改善されている訳で、これは素直に驚きしかない。
■表3 | |||
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Dhrystone | 性能(GIPS) | 実行消費電力差(W) | 効率(GIPS/W) |
Ryzen 5 7600X | 458.35 | 129.3 | 3.5 |
Ryzen 5 9600X | 448.91 | 78.6 | 5.7 |
Core i5-14600K | 636.07 | 174.7 | 3.6 |
Ryzen 7 7800X3D | 533.09 | 81.6 | 6.5 |
Ryzen 7 9700X | 524.53 | 70.9 | 7.4 |
■表4 | |||
---|---|---|---|
Whetstone | 性能(GFLOPS) | 実行消費電力差(W) | 効率(GFLOPS/W) |
Ryzen 5 7600X | 261.47 | 127.4 | 2.1 |
Ryzen 5 9600X | 257.00 | 77.8 | 3.3 |
Core i5-14600K | 395.80 | 162.2 | 2.4 |
Ryzen 7 7800X3D | 318.20 | 76.1 | 4.2 |
Ryzen 7 9700X | 311.77 | 70.6 | 4.4 |
■表5 | |||
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TMPGEnc Video Mastering Works 7 | 性能(fps) | 実行消費電力差(W) | 効率(fps/W) |
Ryzen 5 7600X | 14.6 | 152.3 | 0.096 |
Ryzen 5 9600X | 15.3 | 88.7 | 0.172 |
Core i5-14600K | 16.9 | 190.8 | 0.089 |
Ryzen 7 7800X3D | 17.1 | 92.9 | 0.184 |
Ryzen 7 9700X | 17.5 | 84.4 | 0.207 |
考察
ということでまずはエントリモデルのRyzen 5 9600XとRyzen 7 9700Xの性能をお届けした。本国の価格では今朝報じた様に
・Ryzen 5 9600X $279.00
・Ryzen 7 9700X $359.00
・Ryzen 9 9900X $499.00
・Ryzen 9 9950X $649.00
と発表されている。
今回はRyzen 5とRyzen 7が対象なのでRyzen 9の話は措いておくとして、米国Amazonにおける8月6日(日本時間:米国時間では8月5日)現在の価格は
・Ryzen 5 7600X $197.80 (https://www.amazon.com/dp/B0BBJDS62N/)
・Ryzen 7 7700X $288.26 (https://www.amazon.com/dp/B0BBHHT8LY/)
・Ryzen 7 7800X3D $376.26 (https://www.amazon.com/dp/B0BTZB7F88/)
となっており、定価はともかく実勢価格で考えるとちょっと割高なのは致し方なしだろう。それでもこれらの発表時の価格は
・Ryzen 5 7600X $299.00
・Ryzen 7 7700X $399.00
・Ryzen 7 7800X3D $449.00
だったから、性能を上げながら値下げも実現して、しかも消費電力も下がっているのは大したものだと思う。
一方、日本国内では8月10日の11:00に発売開始であり、販売価格は
・Ryzen 5 9600X \54,800
・Ryzen 7 9700X \70,800(どちらも税込)
となっている。同様に日本Amazonでの8月7日現在での価格は
・Ryzen 5 7600X \36,980 (https://www.amazon.co.jp/dp/B0BGX57VQD/)
・Ryzen 7 7700X \52,980 (https://www.amazon.co.jp/dp/B0BGX738W4/)
・Ryzen 7 7800X3D \69,700 (https://www.amazon.co.jp/dp/B0BTZB7F88/)
というあたりで、まぁ当初はやや高めなのは致し方ないが、今Ryzen 7 7800X3Dを購入するのとほぼ同じ価格でRyzen 7 9700Xが買えるというのは、なかなか判断が難しいところである。
全体として性能には申し分が無いと思う。このクラスのCPUでピーク性能を得るために100Wを超える電力を突っ込むというのは正直まるで感心しない。これならX SKUでない、65W TDPのモデルでもかなり良い性能を出すと思える。そうでなくても猛暑で冷房を使わないと死んじゃうとかいうこのご時世には、この効率の良さは非常に得難い特徴だと思う。筆者は現在の原稿書きマシンにRyzen 7 7700Xを突っ込んでいるが、これをRyzen 7 9700Xに更新する事を真剣に考えている。
Ryzen 9に関してはピーク性能が問題にされやすいラインナップであり、こちらはAMDも判ってるのか、TDPを120W(Ryzen 9 9900X)/170W(Ryzen 9 9950X)に設定しているから、こちらでは効率は落ちるだろうが性能は更に上がる事が期待できる。性能を取るか、効率を取るかという話だが、性能を取るのはRyzen 9だけで十分である。効率を重視したいユーザーには強くお勧めしたい。既存のRyzen 5 7600X/Ryzen 7 7700XユーザーのUpgradeも、この性能と消費電力なら十分意味があると思う。