『新宿野戦病院』は、運び込まれる患者がおかしさにあふれる人だったり、通常の医療ドラマであれば緊張感あふれる手術シーンに笑えるやり取りを盛り込んだり、かと思えば、親から望まれずに生まれた少女との交流を丁寧に描写して社会派な一面を見せたり、“命の平等”について深く考えさせられる場面があったり…と、様々な要素が詰まったドラマに仕上がっている。そんな今作において、監督が最も描きたいテーマは何かを聞いてみると、意外にも“ホームドラマ”というコンセプトが明かされた。
「このドラマには、実は主要な登場人物たちの“家”が出てこないんです。ゲストの家とかはちょっと出てきたりはするんだけど、例えば享(仲野太賀)の家とか、横山(岡部たかし)の家とかは出てこないんですよ。それはなぜかと言うと、病院が“ホーム”だからなんです。濱田(岳)くんが演じるおまわりさんも含めて、病院の“ホーム”にみんなが集まってくるような、僕の中で大きな枠組みは“ホームドラマ”だと思って作っていますね。『俺の家の話』もそうだったけど、宮藤さんはホームドラマも得意とされているので、そういうものを目指しています」
出会いは役者「なんて面白いやつがいるんだ!」
河毛監督と宮藤氏との出会いは、脚本家ではなく役者だった。
「僕と宮藤官九郎さんとの出会いは、96年に私が演出した稲垣吾郎さん主演で横内謙介さん作の『夜曲』という舞台に彼が出てくれた時です。その作品での彼がすごく面白かった。“なんて面白いやつがいるんだ!”って思ったのが、俳優の宮藤くんでした。それが、きっかけです。
これは(劇団)大人計画全般に言えることかもしれないんだけど、劇場で客をドン引きさせることを恐れないんだよね(笑)。その“間”ができることを恐れない笑いというか、すごくコメディセンスのある役者さんだなってその時思ったんです。だから脚本家というより役者さんが先で、自分の作品にも『おいしい関係』(96年)や『ギフト』(同)、『二千年の恋』(00年)とか、メインの登場人物ではないんだけど、よく出てもらっていたんです」
その後、TBSで脚本家として注目を集め、一緒にタッグを組んだ『ロケット・ボーイ』へつながるそうだが、「そういった意味ではやっぱり、磯山(晶、TBSの宮藤官九郎作品を手がけたプロデューサー)さん、TBSは偉いですよね。あの時代の、決して地上波向けとは思えない作品を、まだ有名作家ではなかった若い宮藤さんに任せて、その後もずっと使い続けた。その才能に懸けたというのは、やっぱりすごいなと思っています」と賛辞を送った。
●河毛俊作
1952年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学卒業後、76年フジテレビジョンに入社。『君の瞳をタイホする!』『抱きしめたい!』『沙粧妙子-最後の事件-』『ギフト』『きらきらひかる』『ナニワ金融道』『タブロイド』『救命病棟24(第4シリーズ)』『松本清張 砂の器』といった同局のドラマの演出ほか、WOWOWの『パンドラ』シリーズ、映画『星になった少年』『仕掛人・藤枝梅安』などの作品で監督を務める。