――アナウンサーを目指したきっかけは、何だったのですか?
いろんな経緯があって、どの部分からお話ししたらいいのか迷ってしまうのですが…。一番さかのぼると、家に一枚のCDがあったんです。それは『JET STREAM』(TOKYO FM)のイージーリスニングを集めたもので、母親がよく聴かせてくれたのですが、僕はその曲ではなく間に挟まる城達也さんのナレーションのほうが気になっていたんです。小学1年生くらいの時なのですが、それが心をとらえて離さなくなってしまって、声で伝えるってすごく面白いなと思ったのを覚えています。
――「夜の静寂(しじま)の、なんと饒舌なことでしょうか」というフレーズで有名ですが、小学1年生で意味は理解していたのですか?
意味は分かってないのですが、素敵だということは何となく分かっていた感じです(笑)。そのものまねをやったりしていたのが、最初のきっかけだったと思います。
それから小学校高学年になると東日本大震災があって、同じ年に紀伊半島の大水害があったんです。もともとテレビが好きでよく見ていたのですが、テレビを見る中で災害報道を見る時間が多くなって、そこでアナウンサーが目の前に出てきてしゃべるという機会がすごく増えました。この頃は、アナウンサーが起きたことを伝えるだけでなく、命を守るための呼びかけもするという役割になりつつあるときで、「尊敬できる大人って、こういう人たちのことを言うのかもしれない」という気持ちとつながって、すごく意識するようになりました。
――趣味に「AMラジオを聴く」とありますが、やはりラジオとの出会いも大きかったですか?
そうですね。高校生の時、たまたまNHKの『ごごラジ!』という神門光太朗アナウンサーがやってらっしゃった番組を聴いて、投稿を送ってみたら、生放送中に電話がかかったのですが、それが取れなかったんです。
――「5コールの間に出てください」みたいなやつですね。
はい。その時に神門アナウンサーが放送中に留守電を残してくれていたのですが、取り逃したもったいなさもあって、しばらく聴かないと気が済まなくなってしまって(笑)。それから他の番組も聴いていくうちに、ラジオはアナウンサーの人格がすごく前面に出てくるのが面白いなと思って、自分は話すことも言葉も好きですし、これはもうアナウンサーの採用試験を受けることになるんだろうなと思ったんです。
――運命を感じたと。
そうですね。それで自分の中でやりたいこととして、防災報道、ラジオ、競馬実況の3つの柱があって、どれかができる局に行きたいという気持ちがあったので、競馬中継のあるフジテレビに採用していただけて、すごくうれしかったです。
――競馬実況にも興味があったんですね。
大学生の時、2021年のエリザベス女王杯を見ていたら、人気薄だったアカイイトという牝馬が予想に反して勝ったんです。そのときに、カンテレの岡安(譲)アナが「これは運命の赤い糸」とドラマチックな実況をされていて話題になったのですが、競技としての魅力が実況でさらに引き立つというのを感じて、もし自分がアナウンサーになったら絶対やりたいなと思いました。
――いろんな経緯からアナウンサーになりたい思いがどんどん募っていったのが伝わってきますが、それだけに内定の連絡がきた時は、喜びもひとしおだったのではないでしょうか。
まずは本当にびっくりしました。正直、「フジテレビには受からんやろ」と思っていたので。
――それはなぜですか?
やっぱりフジテレビの男性アナウンサーの何となくの系統があると思っていました。自分はその中に入っていないだろうから、一つの場数として経験を積ませてもらって、カメラテストまで行かせてもらえたらうれしいなという気持ちでした。
研修中に大失敗「非常に反省しています」
――入社わずか1週間で、さんまさんの特番『FNS明石家さんまの推しアナGP』の収録に参加されて、見事グランプリに輝きました(笑)
もう緊張というか、何をやっていいのか分からない場でした(笑)。「自己紹介してね」と言われていたものの、見学するつもりで行ったのですが、最終的にトロフィーを持っていて(笑)。自分が何をしたのかも覚えてなくて、完全に浮き足立っていました。
――反響も大きかったのではいでしょうか。
いろんな人から電話が来たりしました(笑)
――あの番組をきっかけに、YouTubeやインスタグラムの内容がネットニュースに取り上げられるようになりましたが、ご覧になってますか?
あんまり積極的には見ていないのですが、友達から「こんなの出てたよ」と送られてくるので、どうしても見ちゃいますよね。戸惑っていますが、ちょっとうれしい気持ちもあります。
――以前、佐々木恭子部長に、上垣さんの研修期間中での失敗談を伺いました(笑)。ぜひその話を詳しく伺いたいです。
とても恥ずかしいのですが、佐々木部長との入社後初めての個別面談があったんです。自分がやりたい仕事や悩みなども聞いていただける大事な面談なのですが、「外郎売り」(※)に熱中してすっぽかすという、社会人としてあるまじきミスを犯してしまいました…。
その日は系列局のアナウンサーと一緒の研修が始まる日で、全国からたくさん同期が来ているので、「朝から発声練習しよう!」とやっていたのですが、やはり「外郎売り」はものすごく引き込まれるところがあるわけなんです。それで夢中になってやっていたところに、気づいたら佐々木部長が来て「上垣くん?」と…。これは非常に反省しています。
(※)…滑舌練習によく使われる口上